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朝ドラ『あんぱん』晩年の夫妻を襲った病魔 妻・暢さんの闘病生活と「丸山ワクチン」

朝ドラ『あんぱん』外伝no.78


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』は、最終週「愛と勇気だけが友達さ」が放送中。アニメは一躍人気となり、嵩(演:北村匠海)は仕事に追われる日々をおくっていた。そんなある日、のぶ(演:今田美桜)が体調不良で病院へ行っていることを知らされた嵩は愕然とする。のぶは気丈に振る舞うが、嵩は不安だった……。さて、史実でも夫妻は健康問題に悩まされ、暢さんは長い闘病生活を続けることになった。


■突然「余命3ヶ月」と宣告され……

 

 昭和60年(1985)、日本テレビから「アンパンマン」のアニメ化の話が持ち掛けられた頃、66歳になっていたやなせ氏は自身の健康問題に悩まされていた。それもあって、最初は「これ以上仕事を増やしたくない」と乗り気ではなかったという。

 

 まず目がかすんで見えづらく、色もおかしかった。そこで知人に相談し、紹介された病院で両目とも眼内レンズ装着の手術を受けることになった。また、同時期に血尿が出たことで泌尿器科を受診したところ、結石が原因ということで除去手術を受けている。この時は1週間ほどで退院し、すぐに仕事を再開させたそうだ。

 

 それから約3年が過ぎて、ようやくテレビアニメ『それいけ! アンパンマン』が放送開始となった直後の昭和63年(198812月、妻・暢さんが体調を崩した。すぐに受診して手術、入院となったものの、やなせ氏は残酷な宣告をされる。暢さんの体はすでにがんに蝕まれており、全身に転移しているため手遅れの状態だというのだ。その際、「余命は3ヶ月です」と医師から告げられている。

 

 やなせ氏にとって、暢さんはかけがえのない存在だ。いつも明るく朗らかで、お茶の先生をしながら日本各地の山にも登るアクティブな女性だった。長年、漫画家として鳴かず飛ばすだった夫を献身的に支え、常に隣を歩いてくれたパートナーである。そんな暢さんの体調不良に気づけなかったことを、やなせ氏は悔やんで自分を責めた。

 

 知人からの勧めでやなせ氏が頼ったのは、「丸山ワクチン」だった。担当医には「効果はないと思います」と言われたが、それでもと懇願して抗がん剤治療と並行して投与を始めた。

 

 暢さんは同月26日に退院し、年末年始を家で過ごしている。どれだけ辛くても気丈にふるまい、お茶の稽古もすぐに再開したというから驚きだ。

 

 徐々に医師に宣告されたタイムリミットが迫ることに怯えていたやなせ氏だったが、そこから暢さんは驚異的な回復を見せる。健康だった時以上に体重が増え、担当医も驚くほど元気になったのだ。抗がん剤治療と丸山ワクチン、そのどちらが暢さんの体に効いたのかはわからないが、やなせ氏は「奇跡だ」と大喜びした。

 

 夫妻は健康問題を抱えながらも、そこから「アンパンマン」の快進撃を見届ける。アニメは一躍人気となり、平成元年(1989)にはアンパンマンが「文化庁テレビ優秀映画」に選出された。さらに平成2年(1990)にはやなせ氏が日本漫画家協会大賞を受賞、平成3年(1991)には勲四瑞宝章の授与が決まり、夫妻は揃って式典へ出席、秋の園遊会に招待され、その時も暢さんを伴って出席。当時の天皇皇后両陛下と言葉を交わしている。

 

 アンパンマンブームで夫妻の長年の努力にようやく光が当たったが、暢さんの病状は静かに悪化していた。いつからか丸山ワクチンの投与は中断し、抗がん剤治療で闘病生活を送っていた。やなせ氏は暢さんを喜ばせたいと「アンパンマン二十周年の未来を祝う会」というパーティーを計画したが、結果として脚を悪くした暢さんは参加することができなかった。

 

 平成5年(199311月、暢さんの容態が急変し、緊急入院となった。3日後には医師から「もう回復の見込みはない」という旨の言葉を告げられる。21日には小康状態となり、テレビを観て出演していたやなせ氏の姿を観て喜んだそうだ。やなせ氏から見て「そんなにはしゃいで大丈夫か」と思うほど元気な様子を見せた。

 

 しかし、22日には意識不明となり、そのまま息を引き取った。享年75歳だった。やなせ氏は生前の約束通り、身内だけで葬儀をすませ、周囲の人間にも3ヶ月の間秘密にした。やなせ氏は「妻というよりも戦友としてこの苛烈な人生戦争を生き抜いてきた同志」と言い表している。

イメージ/イラストAC

<参考>

■やなせたかし『アンパンマンの遺書』(岩波現代文庫)

■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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