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「日本一の水軍」と呼ばれ、伊勢志摩の内海一帯を支配!無敵の鉄甲船を率いて戦国の世を席巻した海賊頭「九鬼家」の歴史とは?【戦国武将のルーツをたどる】

戦国武将のルーツを辿る【第26回】


日本での「武士の起こり」は、遠く平安時代の「源氏」と「平家」に始まるという。「源平」がこれに当たるが、戦国時代の武将たちもこぞって自らの出自を「源平」に求めた形跡はある。だが、そのほとんどが明確なルーツはないままに「源平」を名乗ろうとした。由緒のあるか確たる氏素性を持った戦国大名は数えるほどしかいない。そうした戦国武将・大名家も、自分の家のルーツを主張した。絵空事も多いが、そうした主張に耳を貸してみたい。今回は伊勢志摩の海賊からでて、戦国の世を席巻、明治時代まで続いた「九鬼家」の歴史にせまる。


 

九鬼水軍発祥の地される九鬼漁港(三重県尾鷲市九鬼町)。

 

 戦国時代、船団を率いた水軍は「水軍」とは呼ばれず、「海賊衆」と呼ばれた。文字通りに「海を荒らし回る」意味から「海の強者」「海賊」であった。後に戦国大名に用いられたり、その傘下に入るなどして「水軍」と呼ばれるようになった。北九州の「松浦水軍」は鎌倉時代の「元寇」の際には、先陣として蒙古軍と戦い、倭寇としても知られる。また瀬戸内海の小島を根城に持つ「村上水軍」は、勢力を次第に大きくしていった毛利元就に帰属して、瀬戸内海を制した。

 

 伊勢志摩の内海一帯を支配していたのが「九鬼海賊」であった。後に織田信長の傘下に入って「九鬼水軍」となるが、それまで辛酸をなめながら九鬼海賊の勢力を大きくしていき、「日本一の水軍」と呼ばれるようになる。その中心にいたのが九鬼嘉隆(くきよしたか)であった。

 

 九鬼嘉隆は天文11年(1542)生まれ。九鬼氏は、志摩(三重県東部)の有力な地頭とされるほか、紀伊・牟婁郡(和歌山県・三重県にまたがり、南海道で最大の面積を有した郡)の九鬼浦一帯の豪族ともいう。九鬼家の家伝によれば北伊勢の佐倉を領していた平安時代末期の宮廷歌人・藤原隆信(ふじわらのたかのぶ)が後に九鬼浦に移り、その子の隆良が、志摩波切の川面氏の養子となった。その嘉良の8代目が嘉隆であるという。九鬼氏としては、11代目になる。 いわば九鬼氏は伝承によれば、日本を代表する4つの姓氏とされる「源平藤橘」の四姓のうち、藤原氏という最も古い姓を、先祖に持っていることになる。(もっとも、藤原姓の「藤」を持つ姓が日本では圧倒的に多いことも確かではあるが)。

 

 志摩地域の有力な地頭として周辺を領していた九鬼一族から出た中で、最強とされたのが嘉隆であった。しかし嘉隆は、周辺にいたほかの地頭に敗れたり、伊勢国司・北畠氏にも反抗して破れるなどして土地を追われたこともあり、浮き沈みを体験した。その後、伊勢志摩を拠点として戦い、志摩13地頭といわれる豪族を次々に配下に置き、伊勢志摩地域の覇者になった。

 

 嘉隆率いる「九鬼水軍」を従属させて最大限に使ったのが、信長であった。信長は石山本願寺との戦いで、本願寺に味方する毛利の村上水軍や信長に反抗を続ける雑賀の水軍などに大敗を喫した。隆信は信長の水軍として敗れたことを屈辱に思うと同時に教訓ともして、火に強く焼けたり燃えたりしない軍船・鉄甲船を考案する。なお、この鉄甲船は信長が考案したことのように言われているが、考え付いたのは九鬼嘉隆である。

 

 鉄甲船は、幅13メートル、長さ22メートルという巨大戦艦で、船体を鉄板で覆って、さらに大砲や銃を装備していた。嘉隆は村上水軍との再戦で、600隻を相手に戦い、圧倒的な勝利を収めた。こうした功績から信長は嘉隆に、伊勢志摩3万5千石を与えた。九鬼氏はこれによって戦国大名となり、鳥羽城を築いた。 その後は豊臣秀吉に仕え、秀吉没後の関ヶ原合戦では、嫡男・九鬼守隆(もりたか)を東軍・徳川方に付かせ、自らは西軍となった。家を守るための作戦であったともいわれる。その結果、九鬼家は残ったが、嘉隆は自ら命を絶ってしまった。

 

 とはいえ、嘉隆は鳥羽藩の藩祖であることに間違いはない。なお九鬼家は5万6千石の中堅大名となっていたが、徳川幕府下ではお家騒動などがあって摂津三田2万6千石と、丹波綾部2万石に分割された。海の覇者の家が、内陸の家に生まれ変わったともいえる。歴史の妙味ではある。

 

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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