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真っ昼間から性交をすることを「昼取り(ひるどり)」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語73


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■昼取り(ひるどり)

 

 昼間の性交。明るいなかでの性行為である。

 

 武家屋敷、商家、裏長屋を問わず、木造家屋は隙間だらけだった。また、部屋と部屋の仕切りは襖(ふすま)一枚、部屋と廊下や外との仕切りは障子一枚である。

 

 いわば、声は筒抜け、どこからのぞかれているか、わからない状態だった。

 

 そういう住環境のもとで性行為をするのだから、気が気でないと同時に、スリルもあった。

 

【図】武家屋敷の昼取り。(『枕入秘曲』小松屋百亀、明和六年)、国際日本文化研究センター蔵)

 

(用例)

①春本『会本見男女沙目』(勝川春童)

 

 昼間、男が女の家でしようとする。

 

男「暑気払いに、昼取りもいいものさ」
女「母(かか)さんが来ようにえ。早くしな。いっそ気がせいて、ぶるぶるするよ」

 

 

②春本『絵本花乃香』(西川祐代)

 

 昼間、男がさそって始まった。

 

男「昼取りは気が変わって、また、よいぞ」
女「昼中に滅相な。格子から人が見ようかと、気がわくわくするわいなぁ。それ、もう、よくなってきたわいなぁ」

 

 女は最初こそいやがっていたが、人に見られまいかというスリルはかえって快感につながるようだ。

 

 

③春本『枕入秘曲』(小松屋百亀、明和六年)

 

 武家屋敷。昼中、夫婦が始める。

 

 夫「昼取りは気が詰まる。静かにやりや。人が聞く」
 妻「はあ、はあ、どうも、よくって、消え入るようにござんす」

 

 【図】は、武家屋敷の昼取りの様子である。

 

 

④春本『会本色形容』(喜多川歌麿、寛政十二年)

 

 昼間の房事を楽しむ男女。

 

男「昼取り強盗は、濡れ事師の常だ」
女「おまえのように夜も昼も、やめどのない。このように好きなものかい。しかし、わたしも嫌いじゃねえが」

 

 

⑤春本『遊色豆男』(恋川笑山)

 

 料理屋の橋本の二階で。

 

 橋本の二階でちょんの間の昼交(ひるどり)、案にたがわず、その味のよさ、へのこに吸い付くごとく、はや女房は気をやりて、
「すうすうすう」
 と、よがり顔。

 

昼交に「ひるどり」と読み仮名をつけている。

 

「ちょんの間」は、手軽な性交。第21回参照。

 

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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