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【江戸の性語辞典】 10分~15分のお手軽なセックスのことを「ちょんの間」といった

江戸時代の性語㉑


風俗店に来店する際、男としては「安い」にこしたことはない。ここは今も昔も変わらない。江戸時代、米一升分ほどの価格でいける店があったといい、そこで行われるせわしない性行為を「ちょんの間」といった。ここではその言葉がどのように使われていたのか、用例を紹介する。


 

■ちょんの間(ちょんのま)

 

 最下級の女郎屋である切見世(きりみせ)の遊び方を「ちょんの間」といった。時間はおよそ10~15分で、線香をともして計る。揚代は百文だった。図に、切見世が描かれている。

 

 転じて、せわしない性行為のことも「ちょんの間」といった。挿入して射精するだけの性行為や、早漏気味の性交も「ちょんの間」という。

 

【図】切見世の光景。/『其俤錦絵姿』(東里山人著、文政八年)、国会図書館蔵

 

【用例】

①春本『枕入秘曲』(小松屋百亀、明和六年)

 

 男は女に思いを寄せていた。どうした風の吹きまわしか、女はさせてやると言う。

 

 女「それ、早く、ぬっと入れな」

 男「日ごろの思い、ちょんの間とはありがたい、ありがたい」

 女「必ず誰にも沙汰なしよ」

 

 短時間だが、させてもらえることに男は感激している。いっぽう、女は誰にも言うなと念を押している。

 

 

②戯作『辰巳之園』(夢中山人寝言先生著、明和七年)

 

 ばったり出会った男ふたり。これから、深川に行こうという。

 

「知ったやつらに会ったら、ずい隠れの、ずい逃げにしよう。ちっと用もあれど、用事流しの、ちょんの間遊びと出よう」

 

 深川の岡場所で手軽な遊びをすることにしたのだ。

 

 

③春本『会本色好乃人式』(勝川春章、天明五年)

 

 怒っている女に、男は低姿勢だった。

 

「なんでも、俺が謝るから、もう堪忍したがええ。さあ、仲直りに、ここでちょんの間といこう」

 

 男はセックスさえすれば、女が機嫌を直すと思っているようだ。

 

 

④春本『春情指人形』(渓斎英泉、天保九年頃)

 

 十七歳の指吉と十六歳の娘は、しばしば逢引きをしていたが、人の目を盗みながらで、いつもあわただしかった。

 

 これまで軒下や総後架(そうこうか)で、ちょんの間で、玉茎(へのこ)を半分くらい入れると、指吉が先に気をやり、鶏や猫のように、ちょいちょいと交接(とぼし)たこともあるゆえ、

 

 総後架は、裏長屋などの共同便所。

 

 ふたりは軒下や共同便所を利用するなど、場所に苦労していたので、ちょんの間にならざるを得なかった。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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