【江戸の性語辞典】変態的な性行為を指した「曲取り(きょくどり)」
江戸時代の性語⑲
現在、変態的な性行為を同意のもと行うこともあるだろうが、もちろん江戸時代にもこうした行為をする人たちはいた。人間の性の探求や本能は変わらないのである。今回はこうした稀な体位を指した江戸の言葉を紹介。どんな使われ方をしていたのだろうか?
■曲取り(きょくどり)
正常位(男性上位)以外の性交体位のこと。変態的な性行為をさすこともある。
ちなみに、正常位は、本取りという。

図)夏の曲取り
『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)、国際日本文化研究センター蔵
【用例】
①春本『絵本小町引』(喜多川歌麿、享和二年)
夏、男と女が後背位で性交をしている。
女「夏のぼぼは、今日のように、いつでも曲取りのことだ」
男「尻から風が入って、涼しくていい。しかし、これでは気のいく時、てめえが抱き付くことがならねえで、悪い」
女の言う「ぼぼ」は、性交のこと。
図は、夏のセックスだが、まさに曲取りといってよかろう。
②春本『万福和合神』(葛飾北斎、文政四年)
幾兵衛は、おつびという女を妾にした。
おつびが尻のむっちりは、味がよいと見込んでの首尾、住んだ晩からいろいろの曲取り……(中略)……横取り、また後取り、はずんで突けば、ついまちがって尻(けつ)もされ、
横取りは横臥位、後取りは後背位。尻もされは、肛門性交のこと。まさに、曲取りであろう。
③春本『艶紫娯拾余帖』(歌川国貞、天保六年頃)
冷暖房がない当時、季節によって寝間の環境も変わった。
夏の夕べの涼しき時は、蚊帳(かや)の内の曲取りこそおもしろけれ。
夏であれば、おたがいに真っ裸になれる。
蚊帳の中で、いろんな体位や、変態的な行為をしてみるのが夏の楽しみである。
④春本『偽紫女源氏』(歌川国貞、弘化四年頃)
お艶は自分から、男の上にまたがって始める。
お艶、交接(とぼし)に誇って、種々の奇交(きょくどり)を楽しむ。
性に目覚めたお艶は、正常位だけでは物足らなくなった。
奇交に「きょくどり」という読み仮名を付けているのが愉快である。正常位以外は一種の変態という感覚だったのがわかろう。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
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