【江戸の性語辞典】菊の花に似ている秘部「菊座(きくざ)」とは⁉
江戸時代の性語⑮
江戸時代に使われていた言葉は現在使われなくなった言葉も存在する。意味が変化したもの、まったく使われなくなったものなど様々で、性語に関しても同様。ここでは現代では使われていない「江戸の性語」を紹介し、掘り下げていく。
■菊座(きくざ)
肛門のこと。襞(ひだ)が外に向かって広がる形状が、菊の花に似ていることから、こう呼ばれるようになった。
たんに「菊」ということもある。また、「後門」と書くこともある。

図 一級の菊座(月岡雪鼎『会本夜水交』/国際日本文化研究センター蔵)
【用例】
①春本『会本夜水交』(月岡雪鼎)
上の図は、表題に「上品穴之図(じょうぼんけつのず)」とある。つまり、菊座(後門)の一級品ということ。
上品穴は第一、後門に肉多く、ふくらかにして、肌やわらかに、四十二の襞あるゆえ、濡らすに従い、ゆるやかにして、うるおい満ち出でて、味わい、いたってよろしき也。
四十二の襞のある菊座が一級品とされた。
②春本『阿奈遠加志』(沢田名垂著、文政年間)
肛門の名を菊と呼ぶことは、前にも言えるが如し。釜と呼ぶことは、またやや後なるにや。
古くから、肛門のことを「菊」と呼んでいた。ややあとになって、「釜」とも呼ぶようになった、と。
③春本『柳の嵐』(柳川重信)
若手の歌舞伎役者は副業で、陰間(かげま)をしていた。こうした役者を、舞台子とか若衆(わかしゅ)といった。
大坂出身の男が、若衆と肛門性交(アナルセックス)をしながら、述懐する。
「若衆をしてからは、女子はむそうて、もみないわいの。……(中略)……尻(けつ)と言うたらば、なんぼもしたけど、わが身のような菊座は、またとあろまい」
「むそうて」は上方弁で、きたないの意。「もみない」は、うまくないの意。
「わが身」は、おまえの意味。
男は、女色より男色が好きなようだ。いったん男とすると、もう女は汚く感じる、と。
また、この若衆の菊座は格別なようだ。
④春本『華古与見』(歌川国芳、天保六年)
江戸時代、僧侶は女色は禁じられていたが、男色は自由だった。そのため、僧侶は男色の相手として、寺小姓と呼ばれる美少年を寺に置くこともあった。
六三という男はある寺の和尚に見初められ、寺小姓をしているあいだに、数々の妙技を会得した。
(六三は)よく和尚の気を慰むるのみならず、後門の味、十六、七の娘の新鉢(あらばち)をとぼすよりもはるかにまさり、やわらかに温かく、また巾着(きんちゃく)の如く、男根を締めてしごきつつ、気をやらせるの妙手を得たり。
「新鉢」は、処女の陰部。「気をやる」は、射精すること。
⑤春本『一久禅師諸色問答』(幕末期)
ある僧侶が女と交わり、女陰の味わいに感激している。
「どうも、たまらねえぼぼだ。菊座とは大違いの味だ。ああ、どうも、大違い、ええ、大違い、大違い、それ、大違い、大違い」
この僧侶はこれまで菊座はさんざん経験していたが、女体は初体験だったようだ。「ぼぼ」は、女性器のこと。
僧侶は、菊座よりぼぼの方が美味と感じていることになろうか。
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