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男色の相手をさすこともあった「釜(かま)」という言葉【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語69


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■釜(かま)

 

 肛門のこと。転じて、肛門性交(アナルセックス)や、男色の相手をさすこともある。「おかま」とも言う。

 

 肛門性交を、「釜を抜く」、「釜を掘る」とも言った。

 

【図】男が女の釜を。(『茶の湯の立ぞめ』、国際日本文化研究センター蔵)

 

 

【用例】

①春本『為弄也説話』(蹄斎北馬、文化五年)

 

 雅次郎と美鳥が正常位でしているところ、歓之助が肛門を狙う。

 

 物音聞いて歓之助、見るよりたまらず後ろから、雅次郎が肛門(おかま)をめがけ、下なる美鳥をあて尻に、腰を使えば、

 

 肛門を「おかま」と読ませている。

 

 下になっている美鳥という女をクッションにしたといえよう。

 

 

②『茶の湯の立ぞめ』(不明)

 

 男が女の肛門へ指を入れた。

 

男「釜というと、いずれ陰間、小姓にするところだが、俺は女の釜が好きだから、あとで一番、掘らせてみねえ」
女「あれさ、そんなところへ指を入れてはいやだよ」

 

 【図】は、男が女の釜に指を入れようとしているところ。

 

 

③戯作『東海道中膝栗毛』(十返舎一九著、文政五年)

 

 宿屋で、喜多八が五右衛門風呂をこわし、修繕費として金二朱を払う羽目になった。連れの弥次郎兵衛がからかう。

 

弥「これ、てめえ、なにもふさぐことはねえ。おおきに得をしたわ」
喜「なにが得だ」
弥「釜を抜いて二朱では安い。芳町に行ってみや。そんなこっちゃあねえ」

 

 芳町は陰間で有名。陰間と肛門性交をすれば、二朱よりはるかに高いものについた。

 

 

④春本『比翼形交合』(恋川笑山)

 

 仏教の多くの宗派では女色は禁じられていた。しかし、男色には規制はない。

 

 そこで、住職が男色の相手として、寺で抱える少年を稚児(ちご)とか寺小姓と呼んだ。

 

 和尚が稚児の吉弥と肛門性交をしている。

 

和「こりゃ、こりゃ、吉弥、われは可愛い男じゃ。なんなりと好きな物を買ってやるぞ。はあ、はあ、はあ、どうも煮えのよい釜じゃ」
吉「和尚さん、もし、どうぞ大事の釜を割らぬように、もっと静かにお使いなさいませ」

 

 和尚の抜き差しは激しいようだ。吉弥は肛門が裂けるのを心配している。

 

 

⑤春本『比翼形交合』(恋川笑山)

 

 和尚が寺小姓を呼んだ。

 

「こりゃ、釜の湯は熱いか、見てこよ」
 と言うに、小姓は立ち上がる。
 その手をとらえて、
「こりゃ、その釜じゃない。俺が言うのは、この大事の釜のことよ」
 と言いつつ、若衆を押しこかし、尻をまくりて、上に乗り、へのこにつばを塗りつけ、菊座にあてがい、やわやわと腰を使えば、

 

「寺小姓」と「若衆」は同じ意味。

 

「菊座」は肛門のこと。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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