×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画

いなせな江戸っ子の役を演じた名跡【尾上菊五郎】─ 團十郎家と肩を並べる江戸芝居の名家 ─

江戸っ子が熱狂した歌舞伎役者たち【第5回】


上方での活躍が2代目市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)の目にとまり江戸に進出。「いなせな江戸っ子」の役で一世を風靡した尾上菊五郎(おのえきくごろう)。その芸風の魅力に迫る!


 

歌舞伎の演技は、いかにその人物らしく見えるかが重要であった。役者は「出」、「引っ込み」「見得」などで登場人物の個性を表現した。

  毎年5月の歌舞伎座は「團菊祭(だんきくさい)」を特集する。これは9代目市川團十郎と5代目尾上菊五郎が、名優として、さらには歌舞伎界の最重鎮・両巨頭として敬愛されたことが理由で、二人の芸風と実績を偲び、検証する目的で昭和11年(1936)に始まった歌舞伎界のお祭りである。

 

 尾上菊五郎といえば、怪談話や世話物(江戸時代の町人社会を舞台にした芝居。江戸の当時としては「現代劇」になる)に出る「いなせな江戸っ子」の役で知られるが、実は初代は生粋の江戸っ子ではなく発祥は上方であった。父親が京都・都座(みやこざ)の出方(案内係)をしていた。音羽屋半平(おとわやはんぺい)という名乗りであったことから、菊五郎家の屋号「音羽屋」は、ここに由来している。

 

 初代は、享保15年(1730)に京都で初舞台を踏み、若衆方から女方に進むうちに、ちょうど上方に上ってきていた2代目團十郎(当時は2代目海老蔵/えびぞう)が、初代菊五郎を抜擢して『毛抜(けぬき)』『鳴神(なるかみ)』などの芝居に女方として使った。その初代の女形が絶賛を博した。2代目團十郎は、そのまま初代菊五郎を江戸に同道した。ここで江戸の芝居に初出演した初代は25年間江戸に留まることになった。寛延2年(1749)、江戸で初めて『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』が上演されると、初代は「勘平・お石・お園」の3役を演じた。前髪姿で演じた勘平の形が、後に尾上菊五郎家(音羽屋)の家の芸になる。この後、江戸で成功を収めた初代は、何度か江戸と大坂・京都の間を行き来する。江戸の芝居と上方の芝居を上手にこなして評判を取った。

 

 江戸から大坂に上った時に、初代が船に乗って大坂に入った。これが今も行われている「船乗り込み」の初めである。

 

 菊五郎家の「中興の祖」とされるのは、3代目である。初代の実子・2代目が19歳で急死(病死)したために、初代の弟子筋であった尾上松助(おのえまつすけ/初代松緑)の養子になっていた2代目松助が3代目を襲名した。

 

 3代目は、江戸小伝馬町の建具職人を父親に持ち、役者に憧れて松助に弟子入りした。3代目は文化・文政という時代を代表する名優であった。写実的な芸風と舞台の上のきめ細かい演出をする役者で、実力・人気ともに備わった役者であった。その代表作は『四谷怪談(よつやかいだん)』のお岩、『忠臣蔵(ちゅうしんぐら)』の勘平、『先代萩(せんだいはぎ)』の仁木弾正(にっきだんじょう)・政岡(まさおか)など。しかし、55歳で一世一代を披露して引退した。その後は餅屋などを営んだという変わり種であったが、ファンに求められて再び芝居に復帰、菊五郎ではなく「大川橋蔵(おおかわはしぞう)」という芸名で大坂に行き芝居を披露したが、その帰途に遠州・掛川で死亡した。

 

 3代目の外孫であった5代目は、江戸の粋を実演した5代目や親しく教えを受けた4代目市川小団次(いちかわこだんじ)の実芸を重ねて、世話役を当たり役とした。『髪結新三(かみゆいしんざ)』『魚屋宗五郎(さかなやそうごろう)』『加賀鳶(かがとび)』など江戸情緒の漂う芝居で江戸っ子を魅了した。それが後の「團菊祭」に繋がるのである。

KEYWORDS:

過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

最新号案内

歴史人2023年6月号

鬼と呪術の日本史

古くは神話の時代から江戸時代まで、日本の歴史には鬼が幾度となく現れてきた――跳梁跋扈する鬼と、鬼狩りの歴史がこの一冊でまるわかり!日本の歴史文献に残る「鬼」から、その姿や畏怖の対象に迫る!様々な神話や伝承に描かれた鬼の歴史を紐解きます。また、第2特集では「呪術」の歴史についても特集します。科学の発達していない古代において、呪術は生活や政治と密接な関係があり、誰がどのように行っていたのか、徹底解説します。そして、第3特集では、日本美術史に一族の名を刻み続けた狩野家の系譜と作品に迫ります!