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元禄の歌舞伎人気を決定づけた初代【市川團十郎】 その祖先は武田信玄に仕えた甲州武士だった

江戸っ子が熱狂した歌舞伎役者たち【第1回】


江戸時代の娯楽の中でもっとも高い人気を誇った歌舞伎。華麗な芸を披露した名優たちをとりあげ、その芸の魅力と流派ごとの特徴に迫る! 第1回は江戸の歌舞伎人気を確立した初代・市川團十郎!


 

江戸歌舞伎を代表する演目「助六」。市川團十郎のお家芸で、江戸の伊達男・助六を演じる團十郎の芸に江戸庶民の心は鷲掴みにされた。

 歌舞伎の大名跡・市川團十郎(いちかわだんじゅうろう)が9年ぶりに復活した。11代海老蔵が2022年10月31日「團十郎白猿」として13代目を襲名。250億円ともいわれる市場規模の回復に繋がる期待を背負っての襲名である。

 

 歌舞伎は江戸時代が生んだ「花」である。400年の長い歴史を持ち、役者たちの芸によって伝承され、「家名」によって継承されてきた。だからこそ、名前が重要な意味を持ち、襲名によってその名前を次世代に継承してきたのである。改めて江戸の花・歌舞伎役者の芸と家名・名跡にスポットを当てる。

 

         ◇

 

 江戸歌舞伎の盟主とされてきたのが「成田屋」市川團十郎である。市川宗家とも「歌舞伎の親玉」ともいわれてきた市川家だが、長い間、初代・團十郎の出自は不明だった。昭和初期になって市川家や研究者らが追究して突き止めたのが、初代・團十郎の曾祖父・堀越十郎家宣、祖父・重左衛門は武田家の家臣であったことが判明した(これは10代・11代・12代團十郎も認めており、祖先が住んでいた山梨県市川三郷町には「市川團十郎発祥の地」碑が建立されている)。

 

 團十郎家は、長い歌舞伎の歴史の中でも飛び抜けた立場にいる。それは初代・2代によって確立された芝居が「荒事(あらごと)」と呼ぶ芸であり、この荒事(神が正義のために荒ぶる様子をいう)という様式芸を創始し、伝えてきたことが「江戸歌舞伎の盟主」となった。

 

 荒事とは、英雄的な主人公が悪を倒すという「勧善懲悪」的な芝居であり、江戸の町人たちは、これに大喜びした。7代團十郎は、こうした「家の芸」を「歌舞伎十八番」という形でまとめ上げた。『勧進帳』『助六』『暫(しばらく)』『鳴神』など有名な芝居である。初代團十郎は本名を「蝦蔵(えびぞう)」。これがその後、團十郎になる前の芸名「市川海老蔵」になった。初代は14歳で初舞台を踏み、荒事を創始した。後には年収800両(約8千万円)の江戸第一流の役者になった。だが初代は、芝居の最中に舞台の上で弟子の生島半六によって背後から刺されて絶命した。45歳であった。

 

 團十郎家が「江戸歌舞伎の盟主」などと特別視された理由には、荒事の創始などの他に、隈取りという特種な化粧法、俳句を始めたこと、自ら脚本を書いたこと、成田山新勝寺との深い関係から屋号(成田屋)を付けたことなど、その後の「江戸歌舞伎界」にとって継承していく事柄のほとんどを創始・または最初に実行したことが挙げられる。

 

 こうして代々の團十郎は、江戸歌舞伎の役者として最高位にあった。そして代々代の團十郎からは次々に名優が輩出した。初代の長男であった2代は元より、4代・5代・7代・9代團十郎は傑出した存在として役者仲間からも客筋からも敬愛されてきた。その一方で、初代のように非業に死を迎えたのが、美貌の團十郎として人気のあった8代である。8代は幕末の嘉永7年(安政元年・1854)に自殺する。32歳という若さでの自殺であったが、原因は今もって不明とされる。

 

 なお、令和の襲名を果たした13代(11代海老蔵)は「團十郎白猿」としているが、この「白猿」は5代の俳号から名付けたものである。この「猿」絡みで江戸末期、一門の弟子に「市川猿之助」の名が与えられた。

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過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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