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江戸歌舞伎劇場の開祖【中村勘三郎】─ 座元・猿若座と役者の二刀流で生きる! ─

江戸っ子が熱狂した歌舞伎役者たち【第4回】


現在、勘九郎(かんくろう)・七之助(しちのすけ)兄弟で有名な「中村屋(なかむらや)」。その初代である中村勘三郎(かんざぶろう)は、江戸でもっとも古い芝居小屋・猿若座(さるわかざ)を開いた歌舞伎のパイオニアだ。その活躍と中村屋の系譜を解き明かす。


 

名古屋市・中村公園にある初代中村勘三郎の像。道化役を得意とした初代の動きをモチーフにしている。

 初代勘三郎は始め「猿若勘三郎」を名乗り、寛永元年(1624)という早い時期に京都から江戸に下って芝居小屋である猿若座を開いた。「猿若」というのは、古く歌舞伎発祥時期からの記録にも残されている「道化役(観客を笑わせるような芸をする役者)」のことだが、初代はそれを得意としたことから、そのまま芸名とした。後に猿若座は中村座と名前を変えるが、江戸4座といわれた幕府公認の芝居小屋の中で最も古く、江戸の歌舞伎劇場はここから始まったという。これ以後、勘三郎という名跡は、座元(興行主)の名前として代々継承され歌舞伎界に重きを為した。

 

 元々、座元というのは役者も兼ねるのが、古くからのの恒例だった。従って、代々の勘三郎も役者を兼ねて芝居に出たが、後述するが4代目の頃に中村伝九郎(なかむらでんくろう)という役者専門の名跡を名乗って活躍した。

 

 初代勘三郎には、慶安4年(1651)江戸城で歌舞伎芝居を演じたという記録がある。猿若座命名の元になった芝居「猿若狂言」も初代得意な芸であった。この芝居は、主人に隠れて旅行に出た下人が主人の叱責逃れにはやり唄まじりで道中話をする、という滑稽もの。茶屋女と戯れる方法や木遣音頭(きやりおんど)・獅子踊りなど猿まねのような「猿若の芸尽くし」が盛り込まれた楽しい芝居だった(現在はほとんど演じられない)。2代目の勘三郎は若衆方を兼ねており、明暦3年(1657)には京都御所(朝廷)で拍子事(ひょうしごと/拍子に合わせて歌い舞うこと)を披露したという。だが、あくまでも勘三郎は座元としての立場は崩さずに、役者も兼ねていた。

 

 4代は中村勘三郎として7年間座元を勤めた後で、叔父の長男(従兄弟)に5代勘三郎の名跡を譲り、自らは中村伝九郎という名跡を名乗って役者専門の立場になった。以後「江戸のご隠居」などとも呼ばれたが、所作事(しょさごと/歌舞伎舞踊)には秀でていた。また芸風は、團十郎創始の荒事(あらごと)系であって、元禄時代の江戸芝居の世界では、初代團十郎・初代市川(中村?)七三郎(しちさぶろう)と並んで「三幅対(さんぶくつい/3枚で1組の掛け物)の名人」と賞されたほどである。

 

 しかし「中村伝九郎」という名跡は、幕末まで5代しか続かなかった。大正時代に入って6代目が復活襲名されたが、現在は途絶えている名跡である。 

 

 以後の代々、江戸時代の中村座(旧猿若座)の座元としての中村勘三郎と、役者としての中村伝九郎は、一人二役を演じる形で生きたが、座元・勘三郎と役者・伝九郎という名跡は上手に守り通した。交替して生きる場合もあったし、役者専門に徹した者もいた。また座元としてその地位を守り通した者もいたが、18年間座元を勤め上げた5代勘三郎は、元禄時代の芝居・歌舞伎の最盛期を築き上げた座元として知られる。

 

 現在は勘九郎・七之助兄弟が「中村屋」の屋台骨を支えているが、いずれ19代勘三郎、7代伝九郎が生まれるのではないかと思われる。

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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