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2人の将軍が誕生し混乱を生んだ「明応の政変」

戦国武将の領土変遷史⑰

畠山・細川を中心にめまぐるしく権力が変転

松永久秀は三好氏の家臣だったが、長慶の死後は対立するように。後に「戦国の三悪人」のひとりに数えられるなど悪名も高いが、優秀な武将としての評価も高い。都立中央図書館蔵

 応仁元年(1467)から始まった応仁の乱が、東西両軍の主将・細川勝元(ほそかわかつもと)と山名宗全(やまなそうぜん)の相次ぐ死と畠山義就(はたけやまよしなり)の京から河内への移動によって終焉したのは、文明9年(1477)。

 

 実に10年に及ぶ戦乱によって、京はいうまでもなく近畿一帯は荒廃していたが、義就が河内で宿敵・畠山政長(まさなが/義就の従兄弟)と畠山家の家督をめぐる争いを継続したために山城や大和にも戦火が拡大し、南山城では山城国一揆が起こって両畠山が兵をひくという一幕もあった。

 

 近江に目を転じると、北近江では京極(きょうごく)氏、南近江では六角(ろっかく)氏が守護大名として君臨し、西近江は比叡山の延暦寺が平安時代以来、聖俗両面で権威を維持し物流の要を押さえて強大な力を蓄えている。

 

 長享元年(1487)、六角高頼(たかより)が室町幕府奉公衆の所領を押領しているとして9代将軍・足利義尚(あしかがよしひさ)が始めた六角氏討伐(「長享・延徳の乱」、一般に「鈎の陣(まがりのじん)」)は、幕府軍が現地での兵糧調達のため寺社領を押領したことによる支持離れや、甲賀衆の活躍によって長期戦にもつれこんだ挙げ句、義尚の戦病死という結果で終わり、六角氏はその地盤を守る。

 

 義尚の死にショックを受けた前将軍の父・義政(よしまさ)も世を去ってしまった。

 

 この結果、幕府の威信はますます低下。義尚の従兄弟、義稙(よしたね/応仁の乱の主役となった義視/よしみ/の子)が10代将軍に就くが、それまで美濃に亡命していた義稙に求心力はなかった。

 

 六角討伐と将軍家再興という武断政策による権威高揚の狙いは一応成功(高頼の追放)したが、この動きは京兆家(けいちょうけ/管領を出す細川氏嫡流の家)の細川政元(まさもと)ら、既存の幕府権門に警戒感を抱かせ、対立を呼ぶ元にもなった。

 

 明応2年(1493)、いよいよ幕府を揺るがす大異変が発生する。義稙は政長と組んで義就の子・義豊(よしとよ)の河内高屋(たかや)城を攻めるが、政元によるクーデターで逆に政長が討たれ、義稙も幽閉された。これにより長年にわたる畠山氏の家督争いに決着がつき、一方で将軍の権威は地に墜ち、下克上の様相が激化。これを戦国時代の幕開けと定義することもある。

 

 畠山政長の敗死後、その子・尚順(ひさのぶ)は高屋城に拠って摂津・紀伊・和泉で戦い不安定な状況が続いた。細川政元は翌年に足利義澄(よしずみ)を傀儡として11代の将軍位につけて実権を掌握し、越中に逃れて復権の機会を窺う義稙(越中公方・えっちゅうくぼう)が近江まで兵を進めて延暦寺と結ぶと、政元は機先を制して延暦寺に焼き討ちをかけ、河内・大和に転じて尚順(政長の子で、義稙に付き義豊を討っていた)を攻撃。細川京兆家の勢力を拡大した。

 

 近畿・近江における影響力を最大とした政元だったが、一方では修験道に凝り女色を避けた奇人としても知られる。

 

 当然実子はなく、養子たちを迎えたが、明確な相続方針を示していなかったために起こった家督争いの結果、永正4年(1507)に養子のひとり・澄之(すみゆき)が同じく養子の澄元(すみもと)に滅ぼされると同時に、政元も澄元派の家臣によって暗殺されてしまう(「永正の錯乱」)。

 

 その間、将軍権力は完全に失墜した。幕府影響力はかろうじて近畿にしか及ばなくなり、実権も管領・細川氏に奪われ、細川氏はさらに家臣の三好(みよし)氏に実権を握られていく。直属兵を持たない将軍はしばしば近江へ避難し「流れ公方」などと揶揄された。

 

 翌年、それまで澄元に味方していた細川高国(たかくに)が義稙を担ぐと、敗れた澄元は近江に逃亡し、永正8年(1511)に義稙が将軍職に返り咲いた。18年に及ぶ義稙派・義澄派の争いはここに一旦終止符が打たれる。

 

 しかし永正16年(1519)、澄元は本拠地の阿波から三好之長(ゆきなが)を伴って近畿にふたたび進出。以降、三好氏が時代の主役となっていく。

 

監修・文/橋場日月

『歴史人』202210月号「戦国武将の勢力変遷マップ」より)

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