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戦国最大の戦いに“武者振るい”した歴戦の老将・金森長近(東軍)

「関ヶ原の戦い」参戦武将たちの本音! 第12回 


関ケ原の戦い、この大勝負を待ち遠しかった武将がいた。信長に付き従い、その後、幾多の戦に参陣した金森長近だ。ここではこれまで取り上げられることが稀だった関ヶ原合戦参戦武将の動きと心の裡(うら)を読み解く。


金森長近 かなもり・ながちか
所領/飛騨高山3.8万石、
動員兵力/1,200人(推定)
布陣場所/不明 
合戦での動向/石田三成など西軍主力と対峙する予備軍として活躍
戦後の処遇/美濃、河内で新たに2万石を加増

 

 儂(わし)は美濃・土岐(とき)氏一族という名門に生まれた。右府様(織田信長)の馬廻衆から始まって、随分戦い続けてきた。山城・槇島城、越前攻め、近江・小谷城攻め、河内・若江城攻めに伊勢長島の一向一揆殲滅線、長篠合戦、甲斐武田攻め……。右府様が本能寺で討たれると、柴田勝家(しばたかついえ)に従った賤ヶ岳(しずがたけ)合戦。その後も太閤殿下(豊臣秀吉)に仕えて小牧・長久手の戦い、佐々成政(さっさなりまさ)攻めの後、飛弾・姉小路自綱(あねがこうじよりつな)を下した。儂が殿下から飛弾1国3万8千国を拝領した後も、九州征伐、小田原征伐、唐武陣(文禄・慶長の役)までを戦い抜いてきた。今年で76歳。この関ヶ原だ。この1戦は、儂にとって武闘派としての生涯の最後の戦いになるだろうな。

 

 だが、こんなきな臭い戦場にいて、ふと思い出すのは数々の戦さ体験ではなく、千利休(せんのりきゅう)殿に師事した茶の湯であり、その際に所持した名物といわれる茶器のたたずまいというのはどういうことであろうか。特に儂の名前が付けられた「金森肩衝(かたつき)」は、こうして目を閉じれば瞼に浮かんでくる。あの肩衝を再びこの手にするためにも、この関ヶ原では死ねぬ。必ず生き延びて見せよう。

 

 儂は、殿下の死後はずっと内府公(徳川家康)の側にいた。儂にとって最後の奉公は内府殿、と決めた瞬間からだった。だからこそ、内府公の上杉征伐には養子の金森可重(よししげ)とともに1も2もなく参戦したのだった。以来、儂はずっと内府公と行動を共にしている。昨日、9月14日になって郡上八幡城を攻略に向かっていた可重が、その任を遂げて戻り、内府公に謁見した。お褒めの言葉を授かった際には、我がこと以上に嬉しかった。

 

 さて、日付が代わって15日になった。儂の戦場での勘では、今日が決戦ではないかと思われる。しかし1日や2日では終わらない戦いになるだろう。何しろ、本当のことは分からぬが東軍は10万とも12万ともいう将兵の数。これに対して西軍も10万とも8万ともいう。いずれにしても10数万の軍勢がぶつかり合うのだから、これは戦国最大の合戦になるのだろう。もしかしたら、1カ月以上も日数を費やす戦いになるやも知れぬ。心して掛からねばならぬ。

 

 金森勢1140の将兵の命、大事にしなければ。それにしてもこの雨、何とかならぬものか。昨夜から降り続けていて、気持が沈んできてしまう。

 

 やっ!今、銃声がした。始まったのか。あれは、井伊直政殿と内府公の4男・松平忠吉殿の部隊が抜け駆けしたようじゃ。「始まったぞ。本陣を守れ。守り抜くのだぞ!」。儂は思わず叫んでいた。内府公の本陣には「厭離穢土欣求浄土」の大旗が翻る。儂は、武者震いして始まったばかりの戦場を望んだ。

 

       ◇

 

 戦後、飛弾国3万8千国に美濃国武儀郡と河内国の2個所2万石を加増された長近だが、慶長13年(1608)8月死去した。享年85。

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過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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