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脇坂安治(西軍)~勝つ方に味方するのが合戦の常道

「関ヶ原の戦い」参戦武将たちの本音! 第11回 


歴史は勝者によってつくられてきた。これが世の常である。天下分け目の関ヶ原合戦でこの戦略を採用し、生き抜いた武将がいる。ここではこれまで取り上げられることが稀だった関ヶ原合戦参戦武将の動きと心の裡(うら)を読み解く。


 

脇坂安治

脇坂安治
わきさか・やすはる、所領/淡路洲本3.3万石、
動員兵力/350人(推定)
布陣場所/小早川秀秋の裏切りに備え、松尾山の麓に布陣
合戦での動向/秀秋が東軍に裏切るとそれに応じる
戦後の処遇/本領安堵

 

 何が「賤ヶ岳の七本鑓だ」。俺はいつもそう思って生きてきた。確かあれは、天正11年(1583)のことだった。今から数えて17年ばかり前か。太閤殿下(豊臣秀吉)の天下取りのために最も熾烈な戦いになった柴田勝家(しばたかついえ)殿との合戦。天下分け目の合戦、などといわれているが、この関ヶ原合戦とて同じような「天下分け目の合戦」ではないか。それにしても、儂らも太閤殿下には上手に乗せられて鑓(やり)を振るい続けたものだ。

 

 その結果がどうだ。市松(福島正則/ふくしままさのり)や虎之助(加藤清正/かとうきよまさ)、孫六(加藤嘉明/かとうよしあきら)などは、殿下の覚えもめでたく大出世を果たした。市松は20万石、虎之助は25万石、孫六も10万石の大大名となったのに引き換え、儂はたかだか3万3千石。助右衛門(糟屋武則/かすやたけのり)に至っては、1万3千石に過ぎぬ。「賤ヶ岳の七本鑓」の称号は、一体何のために喧伝されたのやら。

 

 その糟屋と儂の2人だけが、此度の東西に別れて戦うこの関ヶ原で、治部少輔(石田三成)に与したのか。さほど治部を好きであった訳ではなかったのに。むしろ、ここまで我らを率いて素晴らしい戦いぶりを示してくれた刑部(大谷吉継/おおたによしつぐ)の魅力に引かれてここまでやって来たというのが、儂の場合は本当のところだ。だからこそ、その瀬戸際ぎりぎりのところで内府殿(徳川家康)に合力(味方)することにしたのだった。豊臣なんぞに恩顧など感じてはいない。3万石を抜け出して、市や虎の鼻を明かしてやりたい。それも東軍への寝返りの理由でもあった。

 

 8月1日、儂は関ヶ原より以前に、内府公と合意してあった。倅・安元も儂の言い分に従ってくれた。何といっても、内府公直々の花押・署名入りの書状が、この胸にはある。

 

 ともかく、昨夜秘密裡に訪れてきた藤堂高虎の言葉に従えばよい。藤堂隊が「白地に団子」を描いた旗が振られた時が、寝返りの合図だという。その合図を確かめるために、倅・安元を一線から外して見通しの良い場所に置いた。やっ!東軍を圧していた大谷隊に松尾山から金吾(小早川秀秋/こばやかわひであき)の大軍が攻め掛かったぞ!この機か、藤堂隊の旗はまだ振られぬか。倅!目の玉をでかくしてよく見ろよ。

 

 いや、強い。刑部の部隊は強い。それでも金吾の大軍を押し返している。

 

 や、倅の声がする。大声で「白地に団子の旗が藤堂隊で振られている」と。よし、今だ。我らは、あの大谷隊の横合いに突っ込むぞ。者ども、脇坂兵1千が火の玉になって、突っ込め。戦さは勝ち馬に乗るのが定法ぞ!よいか「賤ヶ岳の7本鑓」の夢よもう一度じゃ。掛かれ、掛かれ!

 

        ◇

 

 戦後、安治の所領は安堵され、9年後に2万石を加増されて伊予・大洲5万3千石となった。加藤清正の73万石、福島正則の50万石、加藤嘉明の20万石にはほど遠かった。

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過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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