龍馬と土方がバディに⁉ 歴史作家らが語るNHK正月時代劇『幕末相棒伝』の魅力
坂本龍馬(永山瑛太)と新選組・副長の土方歳三(向井理)が、幕末の京都でまさかのタッグを組む。2022年1月3日(月)夜9時からNHK総合で放送される正月時代劇『幕末相棒伝』について、時代考証を担当した歴史作家・山村竜也氏ら4名が集まり「幕末座談会」を開催。その模様をお伝えする。
緊迫の京都を舞台に慶喜銃撃の犯人探しが始まる
『幕末相棒伝』は五十嵐貴久の『相棒』が原作。脚本を『超高速!参勤交代』などコメディ時代劇で知られる土橋章宏が担当した。
ストーリーは大政奉還か、それとも戦かという緊迫状態の京都が舞台。永山瑛太が演じる坂本龍馬が西郷隆盛(谷田歩)を説得し、徳川慶喜(渡辺大)との話し合いの約束を取り付ける。新選組が先導して慶喜が西郷の元へ出向く途中、何者かが慶喜を銃撃する。これにより慶喜は急遽、帰還。幕府と薩摩藩の話し合いは流れてしまう。
犯人はいったい誰なのか。若年寄の永井尚志(ながいなおゆき・杉本哲太)から呼び出しを受けた土方は、その場で2日のあいだに犯人を探し出すよう命じられる。その相棒は、新選組が入ることのできない薩長にも出入りできる坂本龍馬だった。
奔放に振る舞いながらも、ここぞというところでは熱く信念をぶつける龍馬と、新選組の副長として生真面目な土方は、はじめこそ険悪だが、二人で動くうち、最強の相棒となっていく――。
本来なら敵同士のふたりが相棒を組むという異色の設定と、次々に登場する幕末の有名人たち。コミカルなやりとりもありつつ、熱い見せ場もたっぷりの作品だ。そして殺陣シーンも本格的で、それぞれの流派の構えをしっかり取り入れている。
「時代を駆け抜けたような疾走感を味わえる」(堀口茉純さん)
まずは『幕末相棒伝』を4K版を観たあと、座談会となった。登壇者は作品の時代考証を担当した歴史作家・山村竜也氏、歴ドルの美甘子(みかこ)さん、お江戸ルの堀口茉純(ますみ)さん、そして土方歳三の子孫でもあり資料館の館長、土方愛さんの4人。作品の感想と幕末にまつわる話題で、座談会がスタートした。

坂本龍馬の衣装で座談会に臨んでくれた美甘子さん
まずは、見終わったばかりの『幕末相棒伝』の感想から。
美甘子さんは「とてもテンポがよくてポップな時代劇でした。龍馬を同年代の瑛太さんが演じているのも嬉しかったですし、難しい土佐弁も完璧でした。蕎麦屋で食事しながら議論するシーンは刑事ドラマ『相棒』感もありましたね。龍馬が登場する作品では暗殺の犯人は誰かがいつも話題になりますが、近江屋で語る龍馬もよかったし、犯人もなるほど、と思いました。中村梅雀さんが演じられた、岩倉具視のセリフも現代にも通じるような考えさせられる内容でした」と龍馬への敬意を込めた袴姿で語った。

堀口茉純さんは新選組の羽織姿で思いを熱く語る
新選組の羽織姿の堀口さんは「見終わったときに一緒に幕末を駆け抜けたような疾走感を味わえて、我を忘れてしまいました。土方さんはこうあってほしい、このシーンがあって欲しいというものは油小路事件も含めてしっかり入っていて、向井さんも素敵で見たいものがしっかり見られました。龍馬を演じた瑛太さんも素敵で、ふたりとも魅力的だったのですが、見ていてこのふたりは胸の奥に強い信念があって、彼らと結婚するのは無理そうだなと思いました(笑)」。

時代考証とドラマの調和に感動したと語る土方歳三資料館・土方愛さん
土方さんは「歳三さんはドラマなどで取り上げてもらうことも多いので、そのたび子孫としてはどんな風に扱われているかドキドキしてしまうのですが、『幕末相棒伝』はif(もしも)の世界設定なので、気楽に楽しんで見ることができました。土方歳三を演じられた向井さんも、素晴らしい役作りをされていました。龍馬役の瑛太さんとのかけあいも魅力的で、幕末に興味を持ってくれるファンが増えそうな気がします」と語った。
さらに「以前、資料館にこのドラマで土方と龍馬に犯人捜索を命じた永井尚志のご子孫の方がご来館されて、新選組の土方歳三や近藤勇とは仲が良かったと曾祖父様が夕ごはんを食べながらふつうの話として語られていたと教えてくれました。実際に西郷隆盛がいた薩摩藩も含めて顔が広い方だったようで、その点でもあり得たかもしれない話ですね」と貴重なエピソードを明かした。
永井は倒幕派の龍馬とも親交があったのは史実から明らかになっており、このドラマの設定はあながち“ありえない”話ではないようだ。

神道無念流や天然理心流の殺陣シーンに感心したという山村竜也氏
時代考証を務めた山村氏は「脚本の段階からさまざまな意見を言わせてもらいましたが、出来上がった映像で見るとよりいいですね。バディ感も物語が進むにつれて強くなっていくのが見どころです。ラストシーンは泣けました」。
山村氏は、物語が展開される時期に龍馬と土方が実際に京都で相棒を組むことが可能だったかどうか、書簡や記録から二人の実際の足跡などをトレインミステリーさながらに考察したという。
「京都の街中であれば、組むことはなくても、すれ違ったりしていたことはあると思います」と、山村氏は時代を動かした人物が実際に交差していたかもしれない可能性に触れた。「ただし、龍馬は寺田屋で襲われたあと、ほとんど京都にはいなかったんですよ。久しぶりに帰ったときに、暗殺されてしまった。物語は土佐からもどってすぐの時という設定です」
このほか座談会では、事件の真相に迫っていく中盤以降に海援隊の隊士として登場し、龍馬の捜査をサポートする陸奥陽之助(むつようのすけ/浅利陽介)や、桂小五郎(駿河太郎)、岩倉具視(中村梅雀)などについても話が弾んだ。
最後に、『幕末相棒伝』をこう見てほしいというコメントが登壇者から述べられた。

坂本龍馬、土方歳三の“相棒”像について思いを語り合った4人のパネラーの方々
「龍馬と土方は普通に考えると相棒にはならないはずが、映像だと自然に感じられる。終盤にはこれが龍馬だ、土方だ、と思えるはずです」(山村氏)
「幕末2大スター夢の競演というドラマなので歴女の夢が叶う作品です。あの2人がバディを組むというだけで楽しめます」(美甘子さん)
「2人は共通項も多くて、これまで私がいろいろ重ねてきた妄想が(笑)、このドラマで叶いました。歴史に詳しくなくてもわかりやすくて楽しめる作品なので、没入して疾走感を味わってほしいです」(堀口さん)
「龍馬と土方が相棒になることで化学反応を起こしていくところがわくわくします。細かく考えるより、まず楽しんでほしいですね」(土方さん)
まさに幕末スターの競演が、龍馬と土方を軸に実現している『幕末相棒伝』。龍馬暗殺と油小路事件のこのドラマなりの真相も明らかにされるくだりもあり、最後まで目が話せないストーリーは歴史ファン必見だ。
文/梅田勝司
NHK正月時代劇『幕末相棒伝』
【放送予定】NHK総合 2022年1月3日(月)夜9時~10時29分(89分)
【原 作】五十嵐貴久「相棒」
【脚 本】土橋章宏
【音 楽】遠藤浩二
【制作統括】後藤高久(NHKエンタープライズ) 落合将(NHK) 原克子(松竹)
【演 出】堀切園健太郎(NHKエンタープライズ)
【出 演】永山瑛太 向井理
佐藤隆太 白洲迅 堀田真由 浅利陽介 奥野瑛太 和田正人 阿部亮平
谷田歩 駿河太郎 渡辺大 近藤芳正 / 杉本哲太 中村梅雀 ほか
【「幕末相棒伝」公式サイト】https://www.nhk.jp/p/ts/3K4QPLPQRV/