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映画『CHAIN』で分かる!「油小路の変」が新選組崩壊の始まりとなった理由

歴史を楽しむ「映画の時間」第24回 

 11月26日から公開予定の映画『CHAIN/チェイン』が描く、新選組衰退期に起こった「油小路の変」。新選組内部の権力争いや暗殺集団としての陰湿さ、そして近藤勇の死へと繋がる理由までをも、史実を元に全編を京都で撮影するなどリアルに描いた話題作だ。新選組の崩壊はいかに始まったのかーー。

 

(C)北白川派

新選組が衰退し解体へと向かったのは「油小路の変」がきっかけ?

 

 福岡芳穂(ふくおか・よしほ)監督による『CHAIN』は、京都芸術大学映画学科の学生とプロが劇場公開映画を作るプロジェクト《北白川派》の第8弾作品で、初の時代劇である。

 

 幕末に京都の治安を守るために結成された新選組に関しては、最近でも岡田准一(おかだ・じゅんいち)主演の『燃えよ剣』など、多くの映画が作られてきた。

 

 新選組を映画で描く場合には、近藤勇(こんどう・いさみ)一派による局長・芹沢鴨(せりざわ・かも)の暗殺、京都でクーデターを起こそうとする浪士集団をせん滅した「池田屋事件」あたりのエピソードが定番。ここまでが新選組の組織としての隆盛期で、その後薩長同盟が締結され、徳川慶喜(とくがわ・よしのぶ)による大政奉還を経て、鳥羽伏見の戦いでの幕府軍の敗退によって事実上、京都における新選組が解体するまでが衰退期と言える。

 

新選組内部の権力争いが背景となった内紛「油小路の変」

(C)北白川派

 今回の映画は、その衰退期に起こった新選組の内紛、「油小路の変」を描いたもの。

 

 これまでの新選組映画でも、この内紛に特化して描いた作品は珍しく、そういう意味で注目に値する。「油小路の変」が起こるまでの背景として、新選組内部の権力争いが挙げられる。

 

 近藤勇を局長とする新選組に、「池田屋事件」から4か月後、江戸から来た伊東甲子太郎(いとう・かしたろう)が参加して、近藤と同格のリーダー扱いとなる。彼は《尊王攘夷》思想の持ち主で、これは当初の新選組の方向性と同じだったが、やがて新選組は朝敵としての長州藩士を粛正する集団へと変化し、伊東とは思いがずれていった。

 

 そこで伊東は仲間を引き連れて、崩御した孝明天皇の陵墓を守る集団《御陵衛士》を結成。新選組は隊士の脱退を許さなかったが、伊東一派が朝廷からその任を拝命されるように根回ししたため、分派を認めざるを得なかった。これによって新選組と御陵衛士は、別団体として活動するようになった。

 

 その後に起こった「油小路の変」では、まず伊東甲子太郎が油小路で新選組に暗殺され、彼の遺骸を引き取りに来た伊東一派の3名も殺された。新選組はこの一件で、組織としての御陵衛士を叩き潰そうと目論んだのだ。

 

事件が起こった舞台・油小路を始め全編を京都で撮影

(C)北白川派

 映画では「油小路の変」が起こるまでを、上川周作(かみかわ・しゅうさく)演じる元会津藩の脱藩浪士の視点から描いている。伊東一派と知り合い、また元の会津藩からは新選組の動向も情報として受け取れる彼の存在によって、事が起こるまでの人物関係がよくわかる内容になっている。

 

 「油小路の変」では新選組が殺した伊東の死骸や、その後に殺害した彼の仲間の死骸を油小路に数日間放置した。それには見せしめの意味も込められていて、京の町の人たちはその死骸を見たことになる。

 

 新選組の暗殺集団としての陰湿さがそこにあるが、この映画で目を引くのは、全編が京都で撮影され、実際に事件が起こった現代の油小路に伊東一派の扮装をした俳優たちを死骸として配置し、時空を飛び越えて歴史の現場をありのままに見せていることだ。

 

 京都を訪れると各所に碑が建っていて、血なまぐさい事件がそこで起こったことが書かれているが、本当のところはどんなあり様だったのかを想像するのは難しい。それをこの作品では、今から百数十年前に油小路で起こったことを、まざまざと見せてくれるのが新鮮だ。

 

 福岡監督は『CHAIN』というタイトルには、できごとの連鎖、時間の連なりという意味も込めていると言っているが、まさに一つの場所が持つ時間の連なりを、この映画は体感させてくれる。

 

新選組崩壊のプロローグとして重要なポイント「油小路の変」

(C)北白川派

 俳優では高岡蒼佑(たかおか・そうすけ)が伊東甲子太郎を好演。前述した『燃えよ剣』では、吉原光夫(よしはら・みつお)がどこか胡散臭い、策士然とした伊東を演じていたが、今回の高岡は堅物だが脇が甘い、適度に小物感がある伊東をはまり役で演じている。

 

 思えばこの伊東甲子太郎暗殺がきっかけとなって、その後、近藤勇は《御陵衛士》の残党に狙撃されて戦闘能力を失い、さらに流山で斬首されたときには官軍に参加していた元《御陵衛士》によって、変名を使って自首したが近藤勇であることを看破され、命を落とす結果になった。

 

 そう考えると「油小路の変」は新選組崩壊のプロローグとして重要なポイントであり、その映画化作品として新選組ファンには見逃せない1本になっている。

 

 

【映画情報】

11月26日からテアトル新宿、12月10日から京都シネマほか全国順次ロードショー

『CHAIN/チェイン』

(C)北白川派

監督/福岡芳穂

出演/上川周作、塩 顕治、池内祥人、村井崇記、和田光沙、辻 凪子、土居志央梨、福本清三、大西信満、山本浩司、渋川清彦、高岡蒼佑ほか

時間/113分 製作年/2021年 製作国/日本

 

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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