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桜田門外の変で消された裏切り者は誰だったのか?

歴史を楽しむ「映画の時間」第9回 〜懐かしの名作編〜

旧暦3月3日、桜田門外の変 〜映画「侍」で描かれた激動の幕末〜 

c)1965 TOHO CO.,LTD

 大河ドラマの新シリーズ『青天を衝(つ)け』が始まった。

 

 「日本資本主義の父」と呼ばれる渋沢栄一(しぶさわ・えいいち)を主人公に、91年の生涯の壮年期を中心に描くドラマ前半は、若き栄一が幕末の時流にのまれ、攘夷、そして倒幕活動に身を投じながら、一変、転生したかのように徳川慶喜(とくがわ・よしのぶ)の家臣になるという若者の煩悶する姿を山場に据える。

 

 3月3日に起きた桜田門外(さくらだもんがい)の変を取り上げた映画『侍』も、武家を夢見た男の若さが生む蹉跌(さてつ)を、寂寥感を交えて描いた作品である。

 

 主人公は三船敏郎(みふね・としろう)演じる尾州浪人の新納鶴千代(にいろ・つるちよ)。物語は、万延元年(1860)2月17日――将軍家茂(いえもち)、具足祝いの日に始まる。

 

 江戸城内堀に備わる五口の一つ、桜田門の表には動乱の気が満ちに満ちていた。ただならぬものを放ちながら炯々(けいけい)と刻を睨む男たち。狙うは安政の大獄を号令した大老井伊直弼(いい・なおすけ)<8代目 松本幸四郎(まつもと・こうしろう)>。その登城の列を襲わんと、息をひそめ待ち構えていたのだ。

 

現れなかった井伊大老……通謀した裏切り者は誰だったのか?

 

 だが大老は現れなかった。

 よもや通謀する裏切り者がいるのではと首領の水戸藩天狗党・星野監物(ほしの・けんもつ)<伊藤雄之助(いとう・ゆうのすけ)>は訝り、事を急いて人数を集めすぎたと浪士を見渡す。

 

 疑いをかけられたのが鶴千代だった。腕は立つ。しかし神田鎌倉橋の朽ちかけた土蔵をねぐらにする無頼の徒が、なぜ大義に滾(たぎ)る一団に加わったのか。

 

 素性不確かな男がいては企ての妨げになる。とはいえ確証なしには斬れない。星野監物は早急に鶴千代の身辺を洗うよう命じた。

 

 鶴千代の過去は少しずつ明らかになっていく。

 

素性が分からなかった鶴千代と天狗党との関係

 

 母は、格式高いある武家との間にできた鶴千代を生んだ。だが、妾腹の子として生まれた鶴千代は尾州家(びしゅうけ)のお抱え医師のもとで養子として育てられた。

 医師ではなく一廉(ひとかど)の侍になりたいと、鶴千代は学問所と道場で文武を極め、いずれは武家としての未来が待っていた。

 

 だが、さる高貴な家の娘との出会いによって鶴千代の運命は変わった。若いふたりは互いに惹かれ合い夫婦となることを望んだ。しかし、娘の父親はそれを許さなかった。

「れっきとした大名の御子息でもない限りは、姫との縁談はあまりにも不釣り合いではないかな?」

 素性の知れぬ妾腹の子に娘はやれない、と拒絶したのだ。

 

 父の名を誰からも明かしてもらえない鶴千代は、酒におぼれ道場も破門される。

 それから5年。狼が如く江戸市中をさまよい己の腕を買ってくれる場を求め、天狗党の一味と出会ったのだ。

 

 やがて通謀者は明らかになり始末される。そして星野監物は、3月3日に蹶起(けっき)することを静かに宣言した――。

 

「後世、我々は歴史に残る尽忠の士であらねばならない」

 

 この作品には二つの楽しみがある。

 歴史から消えた事件や人間の生きざまと、生きることに一途な若者が生を爆(は)ぜて事を成した、その先に待つ現実。それぞれに想いを馳せる楽しみだ。

 

 星野監物は、天気や時刻、自らの言葉と、常に子細を書き残させている。しかし、裏切り者を処断したあとで、些事であるかのように、係の者にこう言うのだった。

「後世、我々は歴史に残る尽忠の士であらねばならない――」

 だから不忠の者の記録は燃やせ、と。

 

圧巻は10分もの桜田門外での襲撃シーン

 

 鶴千代は真実の父を知らないまま、井伊直弼襲撃の日を迎える。

 朝五ツ半(9時)、屋敷から江戸城へと向かう大老の輿は60名近くの供回りによって守られていた。

 

 そこを、星野監物が手にする銃の発砲を合図に、18名の男たちが一斉に襲い掛かった。

 10分もの襲撃シーンはすさまじい。一人一人判別がつかないほど吹きつける雪のなか、襲う者と守る者とが幾度も肉体をぶつけ合い十重二十重に屍が積もっていく桜田門外で、まさにいま、眼前で歴史が激しく揺れる姿が映し出される。

 

 輿(こし)の中で井伊は叫ぶ。

「ばかめ! ばかめッ! ばかものォオッ! これで日本から侍がなくなるぞォォッ……!」

 断末魔を踏み散らし井伊直弼に刀を振り下ろした鶴千代は、首を挙げると絶叫する。

「見ろ! この首、200石では手放さん、いや300石でも安い。見ろォーッ!! 本日の殊勲一番! 井伊大老の首は、尾州浪人、新納鶴千代の手にありーッ!」

 

 『侍』はこう締めくくられて終わる。

「首領星野殿の命により、昨夜半、新納に関する記録は一切破棄しあり――」

 歴史の、そして映画の面白さを存分に味わわせてくれる作品である。

 

 

 

【DVD映画情報】

DVD『侍』  <東宝DVD名作セレクション>

監督/岡本喜八 脚本/橋本忍 出演/三船敏郎、新珠三千代 製作年/1965年 製作国/日本 配給/東宝

モノクロ・122分

 

価格:DVD2,500円(税別)

発売・販売元:東宝

 

 

 

 

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隆次郎太郎りゅう じろうたろう

朝ドラ、大河ドラマを好んで観る。印象深い作品は『風と雲と虹と』『北条時宗』『澪つくし』『カーネーション』『半分、青い。』『スカーレット』。和田勉作品の『けものみち』『天城越え』も好きです。趣味は地形を味わいながらの散歩。

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