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歴史の裏面史「信長を倒すには明智光秀を利用すればいい」と入れ知恵したのは誰か?

歴史を楽しむ「映画の時間」第7回 〜懐かしの名作編〜

『続・忍びの者』が描く、もう一つの本能寺の変! 一人の忍者が果たした役割とは?

 

c)1963 KADOKAWA

 いよいよ27日に最終回を迎えるNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。そのクライマックスは長谷川博己演じる明智光秀(あけち・みつひで)が織田信長を討つ、戦国時代最大の下克上ともいえる「本能寺の変」である。

 

 当時最大の権力者である信長に、家臣の光秀がなぜ反旗を翻して討ち果たしたのか。その動機は謎のままで、光秀自身の権力欲説や、信長への怨恨説。黒幕に秀吉や家康がいたという説から、イエズス会や朝廷が後ろで糸を引いていた説まで、様々な動機がTVドラマや映画で描かれてきた。

 

 当然、光秀側と信長側から「本能寺の変」に至る彼らの心情を描いた作品が多いのだが、まったく違う視点からこの政変を映し出したのが、山本薩夫(やまもと・さつお)監督、市川雷蔵(いちかわ・らいぞう)主演による『続・忍びの者』(1963)である。

 

忍者をリアルな人間として描き、一大ブームを巻き起こした『忍びの者』シリーズ

 

 この映画は全8作が作られた雷蔵主演の『忍びの者』シリーズの第2作。村山知義(むらやま・ともよし)原作によるこのシリーズはそれまでの荒唐無稽な忍者のイメージを覆し、忍術はあくまで訓練によって可能になる体術であり、忍者の社会は上忍から下忍まで厳しく階級制度が定められているなど、リアルな人間としての忍者を描き、当時一大ブームを巻き起こした。

 

 『続・忍びの者』のストーリーは前作からの続き。

 

 前作「忍びの者」(62)では、伊賀忍者の首領・百地三太夫(ももち・さんだゆう)の謀略によって、盗みを働く天下の大罪人に仕立てられ、妻のマキ(藤村志保)を人質にとられて、織田信長(若山富三郎)暗殺を強要された元下忍の石川五右衛門(市川雷蔵)が、信長毒殺を図るが失敗。毒殺を仕掛けたのが伊賀の忍者だと知った信長は伊賀討伐に大軍を送り出し、その戦闘の中で五右衛門は、自分が三太夫の謀略に操られていたことを知り、三太夫を殺して自由の身になるまでが描かれた。

 

天下の先行きを左右⁉︎ 徳川家康の配下にあった服部半蔵 VS 忍者・五右衛門

c)1963 KADOKAWA

 『続・忍びの者』では、伊賀を滅ぼした信長は執拗に忍者狩りを続け、その追っ手によって五右衛門はマキとの間にもうけた子供を失う。復讐の鬼になって忍者に戻った五右衛門は、反信長の雑賀党(さいかとう)に加わる。

 

 ここで登場するのが徳川家康(永井智雄)の配下、服部半蔵(はっとり・はんぞう)。

 

 信長を倒すには明智光秀(山村聰)を利用すればいいと半蔵に入れ知恵された五右衛門は、信長に家康の饗応役に選ばれた光秀に、失態を演じさせることを画策。それが成功して、光秀は信長の怒りを買う。それがきっかけになって本能寺の変へとなだれ込むのだが、この映画では燃え盛る本能寺の中で信長を殺すのは五右衛門。つまり一人の忍者が、天下の先行きを左右したことになっている。

 

 ただここまでは映画の中盤で、光秀を討った秀吉(東野英治郎)が、今度は雑賀党のせん滅に乗り出し、その戦闘でマキが命を落とす。妻の復讐に立ち上がった五右衛門だったが、聚楽第(じゅらくてい)に忍び込んで秀吉の命を狙って捕えられ、最後は釜茹での刑にされてしまう。

 

歴史の裏面史…信長暗殺の実行犯は誰か? その背後にいた人物とは?

 

 俗説に伝えられる大盗賊の石川五右衛門(いしかわ・ごえもん)と忍者の五右衛門を一つにして、歴史の裏面史を想像力豊かに描いた娯楽作になっている。物語では信長暗殺の実行犯は五右衛門だが、光秀を利用することも、秀吉が住む聚楽第の絵図面を手に入れるのも、服部半蔵の助けによるもの。つまり後ろでは徳川家康が、五右衛門の復讐心を利用して動いていたというのが『忍び者』シリーズの解釈である。

 

 このシリーズで五右衛門の物語は第3作『新・忍びの者』(1963)まで続き、服部半蔵によって釜茹での刑場から助け出された五右衛門は、またも秀吉暗殺に動き出す。やがて死の床に就いた秀吉の枕元へと忍び込んだ五右衛門は、苦しみながら死んでゆく秀吉を眺め、妻の復讐をようやく果たすのである。

 

 3本を通して表舞台で名を成していくのは家康だが、では五右衛門は彼に利用されただけなのか。

 

 そうではなく通して観ればこのシリーズは、身分制度の中で身動きを取れなかった一人の忍者が、家族や仲間を失いながらも、本当の自由を手にするまでの物語になっている。これに対して合戦や謀略で命を失っていく武将たちは、存在としてはかない。それは三日天下と言われた光秀を含め、誰もが権力という魔物に囚われているからで、本能寺の変にしても、事が起こったプロセスよりも、五右衛門を通して権力を掴むことの虚しさを映し出しているところに、このシリーズの面白さがあるのだ。

 

 

 【DVD映画情報】

DVD『続・忍びの者』

監督/山本薩夫、脚本/高岩 肇、原作/村山知義、製作年/1963年、製作国/日本(大映京都撮影所) 配給/大映

モノクロ・1時間33

 

価格:DVD 2800円(税別)

発売元・販売元:株式会社KADOKAWA

https://www.kadokawa-pictures.jp/official/zoku_shinobinomono/

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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