『超高速!参勤交代』の本木克英監督が地元・富山を舞台に描く!”おかか”たちが内閣を辞職に追い込んだ『大コメ騒動』
歴史を楽しむ「映画の時間」第5回
井上真央が歯を剥き出して演じる富山の”おかか”

©︎2021「大コメ騒動」製作委員会
井上真央は楚々として着物が似合う――歴史作品ではそのイメージが強かった。
ところが映画『大コメ騒動』で松浦いとを演じる井上は、ボロボロの小袖をまとうその顔は浅黒く、ときに怒りを露わに歯をも剥き出しにして咆えていた。
浅黒いのは漁師の家に嫁ぎ、そして女仲仕(なかし)として米俵を背負い荷出し舟まで運ぶ労働のため。怒るのは、米価の高騰で生活が困窮することへの不満である。
102年前の史実「米騒動」の真実とは?
『大コメ騒動』は1918(大正7)年、富山県で起きた米騒動を題材に、おんなたちが声を上げ、世を動かした様を描いた作品だ。
魚津市観光協会は《大正7年7月23日、北海道への米の輸送船・伊吹丸が魚津町に寄港した時、おりからの米価高騰に苦しんでいた漁師の主婦ら数十人が、米の積み出しを行っていた大町海岸の十二銀行の米倉庫前に集まり、『米の値段が高くなるのは、県外に米を持っていくから魚津に米が無くなるのだ!』と、米の積み出しを止めるように要求》した、そうホームページで紹介している。
漁に出ても魚が獲れない。だから男は出稼ぎに行き、“おかか”たちが家を守る。
劇中で描かれる仲仕とは、港で荷運びをする労働者のこと。60キロもの米俵を、倉庫から港へ、ただひたすら蟻のごとく列をなして運ぶ。得られるのは家族をやっと養えるだけの米代。ところが、その米価が日増しに上がっていった。
おかかたちが声をあげた! 日本の女性が初めて起こした市民運動

©︎2021「大コメ騒動」製作委員会
第一次世界大戦は日本に好景気をもたらし、さらにロシアで起きた革命に干渉しようと、時の内閣はシベリア出兵への動きを強めていた。派兵には米が要る。そこに目をつけた投資家が投機目的に米を買い占め、価格は高騰した。
1日の稼ぎではもうコメが買えない。なのに、港からはコメが続々と出ていく――。
そこでおかかたちは声を上げたのだ。
大正期、言論や社会運動は活発になり、女性の社会進出の萌芽もあった。しかし抗議をいくら重ねても暮らしが良くなることはなかった。女が動いたところで何も変わらない、そういう考えがまだまだ根強い時代である。
子どもに食わすものがない。娘の身売りを持ちかけられた家もある。でもそれは一時をしのぐ姑息な手立てにすぎない。やがて、おかかたちの井戸端のつながりも綻びをみせる。
富山の漁師町で起きた騒動はやがて、内閣を辞職に追い込む…
井上演じる主人公のいとは、はじめは抗議の後列に並ぶだけだった。しかし身の回りで起きるいくつもの出来事を目の当たりにする中で、腹を決め、史上「越中女一揆」と伝えられるコメ騒動の中心で立ち上がる。そして心底湧き上がる怒りを叫びながらおかかたちを束ね、縄と網、そして逞しさを武器に、おんな流のいくさに挑む。
富山の漁師町で起きた騒動はやがて全国に波及し、まさに大騒動となり、内閣は辞職に追い込まれることになる。
「台所から日本が変わった!?」――そう『大コメ騒動』は謳う。建前や理想ではなく、本音を叫んだおかかたちの声が政治に届いたのだ。その様を、本作は剣呑ではなく、痛快に描いている。
なまはげのようなビジュアルの室井滋の”おばば”は泣く子も黙る迫力

©︎2021「大コメ騒動」製作委員会
おかかたちを引っ張る、清(きよ)んさのおばばを演じるのは室井滋。泣く子も黙る迫力となまはげのようなヴィジュアルがすごい。富山の浜で育った室井にとって、魚を行商するおばばは実生活のなかに生きていた。だから、その存在感は、“事実”としてスクリーンに映る。
おかかたちが押し掛ける米問屋の女将、鷲田とみは左時枝、その妹きみを柴田理恵。富山出身の俳優陣が放つせりふからは心地よい土地の匂いが立ち上がり、実録のような楽しさもある。
本木克英(もとき・かつひで)監督も富山出身。『釣りバカ日誌』シリーズ(00~02)や『ゲゲゲの鬼太郎』(07)、近年ではブルーリボン賞作品賞、日本アカデミー賞優秀監督賞を受賞した痛快時代劇『超高速!参勤交代』(14)がある。
舞台となった富山県には、米商人が買い付けた米を預ける銀行管理の倉庫や、大町海岸などに往時を偲ばせる展示を見ることができる。
【映画情報】
1月8日(金)より全国公開
『大コメ騒動』
監督/本木克英 脚本/谷本佳織
出演/井上真央、室井 滋、夏木マリ、立川志の輔、左 時枝、柴田理恵、鈴木砂羽、西村まさ彦、内浦純一、石橋蓮司
製作年/2020年 製作国/日本
公式サイト https://daikomesodo.com