×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画

「天外者」で圧倒的な存在感を見せる故・三浦春馬

歴史を楽しむ「映画の時間」第2回

幕末から明治に活躍した偉人で凄まじい才能の持ち主は誰か?

Ⓒ2020 「五代友厚」製作委員会

 「天外者(てんがらもん)」は、今年7月に30歳の若さで急逝した三浦春馬の主演作。今後も出演映画の公開はあるが、単独主演作としては彼の遺作となる。これは幕末から明治にかけて、商都・大阪の礎を築いた実業家・五代友厚(ごだいともあつ)の半生を描いた青春群像劇。

 

 幕末の動乱の中、五代と共に経済を柱とする新しい日本を夢見る仲間として、坂本龍馬(さかもとりょうま=三浦翔平)、岩崎弥太郎(いわさきやたろう=西川貴教)、伊藤博文(いとうひろふみ=森永悠希)が登場。彼ら4人の友情に、遊女・はる(森川葵)と五代の愛を絡めて、若者たちの自由な社会への憧れと奮闘を描いている。

 

大阪を東洋のマンチェスターにしようとした男

Ⓒ2020 「五代友厚」製作委員会

 タイトルの“てんがらもん”とは、五代の故郷・鹿児島の言葉で『凄まじい才能の持ち主』という意味。

 

 幕末の薩摩藩で上級武士の家に生まれ、長崎や欧州諸国に留学した五代は、明治維新後、政府の参与・外国事務局判事や大阪府県判事を歴任。しかし大阪を『東洋のマンチェスター』に発展させるべく実業家に転身して、その後は電信・鉄道・紡績・鉱山などの事業を手掛けた。

 

 その多岐にわたる活躍ぶりは、まさに“てんがらもん”と呼ぶにふさわしい。これまで彼をモデルにした作品には、五代を演じたディーン・フジオカの出世作になったNHK連続テレビ小説『あさが来た』があったが、あのドラマではどちらかと言えば五代の後半生にスポットが当てられていた。

 

 今回の映画では夢に向かって邁進する彼の青年期が物語の中心になっている。

 

 五代は幕末期、海外の技術や知識を学んだために“外国かぶれ”として攘夷派の武士から命を狙われ、同じ襲撃者の手から逃げようとしていた坂本龍馬と友情を結ぶことになる。そこに身分の低さを商才で乗り越えようとする野心家の岩崎弥太郎、その後長州ファイブの一人としてイギリスに留学し、やがては初代の総理大臣になる伊藤博文が友として加わり、彼らは志を持って新時代へ乗り出していこうとする。

 

 しかし五代が留学中に龍馬が暗殺され、相互に響き合っていた彼らの友情は、龍馬の死によってクールダウンし、明治になって五代、岩崎弥太郎、伊藤博文は各々別の道を歩んでいくことになるのだ。

 

歴史上の人物を演じることは俳優にはプレッシャー?

 

 俳優陣では、五代を演じた三浦春馬が印象的。欧州人との取引でも一歩も引かない豪胆さと抜群の行動力を持ち、一方では遊女のはるに優しい一面も見せる情熱的な人物を、重厚に表現している。

 

 歴史上の偉人を演じることは、俳優にとってプレッシャーがかかることが多いが、彼は前を向いて未来に歩んでいく五代を真っすぐに演じていて、その存在感は見事。今さらながらに惜しい俳優を亡くしたことが悔やまれる。

 

 また五代に明るい日本の未来像を語り掛ける、太陽のような盟友・坂本龍馬に扮した三浦翔平もはまり役。さらに西川貴教が、明治になって実業家として成功していく五代に対し、自分は事業が思い通りに行かず、やがて愛憎半ばする屈折した想いを傾けていく岩﨑弥太郎を、繊細に演じて異彩を放っている。

 

幕末の青年たちの姿が現代人に与える元気

Ⓒ2020 「五代友厚」製作委員会

 監督の田中光敏はこれまで、織田信長に見出されて安土城建設の総棟梁になった岡部又右衛門(おかべまたえもん)を描いた「火天の城」、千利休の死の謎を女性の目線から探っていく「利休にたずねよ」、日本とトルコの友好のきっかけとなった1890年のエルトゥールル号遭難事件を、日本とトルコ合作で描いた「海難1890」など、様々な歴史大作を作ってきた。

 

 今回は幕末期の青年たちが持っていた溢れんばかりのエネルギーを映し出すことで、近代日本の黎明期を瑞々しく切り取って見せた。不安と混沌が時代を覆う現代にあって、このストレートに未来を信じる若者たちの姿から、元気をもらえる人も多いのではないか。

 

【映画情報】

1218日(金)より全国公開

「天外者」 

監督/田中光敏 脚本/小松江里子 出演/三浦春馬、三浦翔平、西川貴教、森永悠希、森川葵ほか 製作年/2020年 製作国/日本 

公式サイト https://tengaramon-movie.com/

 

KEYWORDS:

過去記事

金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

最新号案内

歴史人2023年6月号

鬼と呪術の日本史

古くは神話の時代から江戸時代まで、日本の歴史には鬼が幾度となく現れてきた――跳梁跋扈する鬼と、鬼狩りの歴史がこの一冊でまるわかり!日本の歴史文献に残る「鬼」から、その姿や畏怖の対象に迫る!様々な神話や伝承に描かれた鬼の歴史を紐解きます。また、第2特集では「呪術」の歴史についても特集します。科学の発達していない古代において、呪術は生活や政治と密接な関係があり、誰がどのように行っていたのか、徹底解説します。そして、第3特集では、日本美術史に一族の名を刻み続けた狩野家の系譜と作品に迫ります!