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「見えないものに対する恐怖心」と「虐げられたものへの共感」こそが『鬼滅の刃』快進撃の源泉

「鬼滅の戦史」第1回

驚くべき『鬼滅の刃』の快進撃

『頼光四天王大江山鬼神退治之図』一魁斎芳年筆/国立国会図書館蔵

 「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」の快進撃が止まらない。1016日に上映が開始されて以降、わずか45日で、すでに観客動員数2053万人、興行収入275億円を記録。これまで第1位だった「千と千尋の神隠し」の308億円を超えることは、もはや時間の問題である。

 

 主役は、家族を鬼に惨殺された炭売りの少年・竈門炭治郎(かまどたんじろう)。鬼の血を浴びて自身も鬼と化した妹・禰󠄀豆子(ねずこ)を人間に戻すために、鬼狩り集団・鬼殺隊に入団して鬼との戦いを繰り返すという物語である。

 

 冷酷非情な鬼たちの首領・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)はもとより、6つの目を持つ黒死牟(こくしぼう)、全身に刺青を施した猗窩座(あかざ)、額に2本の角と大きなコブのある半天狗(はんてんぐ)、2つの口を持つ玉壺(ぎょっこ)、花魁に化けた妖艶な美女・堕姫(だき)といった魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)。彼らとの死闘の末、無事、妹を人間に戻すことができた…というお話だ。

 

 この映画は、もともと『週刊少年ジャンプ』での漫画連載(20162020年)が皮切りとなったもので、20194月からテレビアニメが開始されて爆発的にヒット。さらに劇場版化されるに及んで、コミックス(全23巻)の売上も急増。 現時点で、すでに累計発行部数1億2000万部という驚くべき数値をはじき出したのである。

 

今、なぜ「鬼」に注目が集まるのか?

 

 それにしても、「鬼」をテーマにした物語が、なぜここまで注目されるようになったのだろうか?ここに登場する「鬼」とは、いうまでもなく「人を喰う鬼」である。おぞましい異形の相もさることながら、人の血肉をより多く食した鬼ほど、「血鬼術(けっきじゅつ)」と名付けられた異能の力(妖術)が宿るというから恐ろしい。

 

 しかし、注目すべきは、登場する全ての鬼が、元は人間であったとの想定である。世に危害を加える鬼たちも、元をたどれば皆、悲しい過去を持つ人間であった。様々な事情によって社会から虐(しいた)げられ、のけ者にされた者たちで、悲運漂う人間模様を生きざるを得なかったというところに、読者としても複雑な想いがよぎるのである。運命に虐げられた人間が、恐るべき鬼と化してしまうところに、社会の非情や人間の弱さを感じとってしまうのだ。

 

 本来、鬼とは死者の霊魂を表す言葉だったというが、その目に見えないものに対する恐れの感情が、様々な形態をもって語られるようになったのだろう。人々の心の中に住まう恐怖心が鬼と化し、あらぬものが見えてしまうのかもしれない。この「見えないものに対する恐怖心」と「虐げられたものへの共感」こそが、『鬼滅の刃』の読者の心を打つのだ。

 

各地に伝わる鬼伝説に注目!

 

 ところで、ここに登場する鬼たちを振り返ってみると、実は日本各地で言い伝えられてきた鬼伝説にルーツを持つものが少なくないことに気付かされる。鬼の首領として登場する鬼舞辻無惨は、丹波国大江山(たんばのくにおおえやま)を根城にしていた酒呑童子(しゅてんどうじ)と境遇がよく似ている。病弱で20歳までしか生きられないといわれていた鬼舞辻無惨に対し、多くの女性から求愛されるほどの美少年であった酒呑童子。ともにひ弱な少年時代を過ごした後、絶望の淵に追われた末、請わずして鬼に。

 

 その後は、ともに多くの配下を率いて人肉を喰らうという凶暴な鬼と化している。元盗賊の猗窩座に至っては、盗賊の鬼・鬼童丸(きどうまる)とそっくり。大蛇となった蛇鬼は、美形の僧・安珍(あんちん)を焼き殺した清姫にも似ている。となれば、いっそのこと、各地に伝わる鬼伝説を洗いざらい書き出してみるのも面白いのではないか?そんな想いで始まったのが、今回の連載「鬼滅の戦史」なのである。

 

 加えて、『古事記』『日本書紀』『日本三代実録』『出雲国風土記』『今昔物語集』『太平記』『日本霊異記』といった様々な歴史書や説話集にも、鬼伝説もどきの奇怪な話が数多く記されていることにも注目したい。事実を淡々と記された中に、突如、謎めいた話が登場して驚かされることも少なくないのだ。

 

 おそらく、そんな奇怪な記述にこそ、編纂者が正面切って記すことのできなかった隠されるべき史実が、説話の形でさりげなく盛り込まれているに違いない。それを解読することで、埋もれた歴史を洗い出すことも不可能ではないのだ。鬼伝説から真の歴史を読み解くというのも、また新たな試みなのである。

 

 ともあれ、次回の「鬼滅の戦史」に登場するのは、鬼舞辻無惨ならぬ大江山の酒呑童子。その動向にご期待あれ。

 

(次回に続く)

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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