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土方歳三をたぎらせたのは攘夷でも勤皇でもなかった! 映画『燃えよ剣』が描く姿

歴史を楽しむ「映画の時間」第22回 

新選組が時代を追わず、夢を追いかけた理由とは何か?

©2020「燃えよ剣」製作委員会

 司馬遼太郎(しば・りょうたろう:「遼」の漢字の正式表記は、しんにょうに二点)、不朽の名作『燃えよ剣』が原田眞人(はらだ・まさと)監督の手で映画化され、10月15日より公開中だ。主演は岡田准一(おかだ・じゅんいち)。扮するのはもちろん、鬼と畏れられた新選組副長・土方歳三(ひじかた・としぞう)だ。

 

 本作が謳うキャッチコピーは「時代を追うな、夢を追え」。

 

バラガキと呼ばれた土方歳三をたぎらせるのは攘夷でも勤皇でもなかった! 

©2020「燃えよ剣」製作委員会

 なぜ時代を追わないのか。追いかける夢とは何か。その答えの先に、バラガキと呼ばれた土方歳三の姿がくっきりと立ち昇る。茨のように棘だらけで、迂闊に触れば怪我をさせられてしまいそうな子供。だから、バラガキのトシ。生まれ育った武州多摩で彼はそう呼ばれていた。

 

 時代にうねりをもたらすのは、人の群れがたぎらせる一時の空気である。若者たち――敢えて攘夷世代、勤皇世代と呼ぶならば、彼らは時代のど真ん中を駆ける昂揚感に浸かっていた。

 

 だが岡田が見せる土方歳三は、攘夷攘夷と喧(かまびす)しい声に耳をふさぎながら、顔を歪めてつぶやく。「俺は流行りものは大(でぇ)嫌いだからねえ」と。

 

 土方をたぎらせるのは攘夷でも勤皇でもない。名刀「二代目和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)」ただ一振りを手に、うねる時代に飛び込み己を燃やす。土方はこうも言う。「俺らの天然理心流は野暮ったい田舎剣法だったよ。けど実戦じゃめっぽう強かった……バラガキは喧嘩に明け暮れ、サムライになる夢を見てたっけよ」と――。

 

司馬遼太郎が小説の参考にした名高い資料に綴られていたこと

©2020「燃えよ剣」製作委員会

 司馬遼太郎は新選組を小説の題材にするにあたり、子母澤寛(しもざわ・かん)著『新選組始末記』を参考にしたことはよく知られている。

 

 新選組についての証言をもとに綴られた資料的価値の高いこの書には、昭和初頭まで生きた隊士・稗田利八(ひえだ・りはち)が語る入隊時の様子が収められている。

 

 《その時分の京都新選組の評判というものは、剣術使いの間などでは大したもので、この隊に入ることが、男児の本懐ででもあるような気持をしていたものです。(略)牛込廿騎町の近藤勇の邸に土方先生が滞在しているとのことなので、二三人の友達と一緒にここへ出掛けて行った。(略)そこへ唐紙を開いて、黒い紋付を着て仙台平の袴をはいた土方先生が出て来て挨拶しました。いい男ですから、一万石や二万石の大名のように見えました。髪は総髪を束ねて、「いや、御苦労でした、わたしが土方歳三です」というようなことを第一番にいいました。それからいろいろ細かい話があって、とにかく隊士に編入されることになって、仕度金を貰って引取りました。(略)十月二十一日、夜の明けるのを待って、牛込廿騎町の近藤邸に集合し、これから一同揃って出発した。土方先生も歩るいて行きました。秋晴れというのか、青々した空で、われわれは立身出世が眼の前にぶら下ってでもいるように浮き浮きして歩るいたもんです》

 

 芹沢鴨(せりざわ・かも)を暗殺し、天下に武名を轟かせた池田屋事件のあとの慶応3年(1867)、32歳の土方の姿である。京の市中警護を務め200名まで隊勢を発展させた新選組の隆盛までもが目に浮かぶようだ。

 

次第に時代から取り残されてゆく新選組

©2020「燃えよ剣」製作委員会

 しかし、新選組は次第に時代から取り残されてゆく。

 

 局中法度による死の制裁、内部分裂、そして官軍勢力との戦いに敗れ追われる隊士たち。

 

 本作にはダンダラ模様を染め抜いた浅葱色の、あの新選組はいない。

 

 スクリーンを駆けるのは墨染めの隊服をまとう、まるで烏合であり、その先の死をも予感させる黒い集団だ。やがて近藤勇(こんどう・いさみ=鈴木亮平/すずき・りょうへい)、沖田総司(おきた・そうじ=山田涼介/やまだ・りょうすけ)と、灯が一陣の風で消されるように一人、また一人と敢え無いほどに命を落としていく。

 

背中にまとわりつく死を、漲る生で掃いながら……

©2020「燃えよ剣」製作委員会

 映画化にあたり、『燃えよ剣』には「BARAGAKI UNBROKEN SAMURAI」と副題がつけられた。「バラガキ」「不屈」そして「サムライ」。時代が攘夷だ勤皇だ、そして官だ賊だと声音(こわね)を変えていくなか、土方だけは何かを貫くように真っ直ぐ進み続ける。背中にまとわりつく死を、漲(みなぎ)る生で掃いながら。

 

 岡田が見せる土方はよく食べる。箸でつかみ腹で味わう――さながら野犬のように〝食う〟。その野生が、最期を迎えてもなお、眩い残像を放ってくる。

 

 

【映画情報】

全国公開中

『燃えよ剣』BARAGAKI UNBROKEN SAMURAI

 

監督/原田眞人

出演/岡田准一、柴咲コウ、鈴木亮平、山田涼介、伊藤英明

時間/148分 製作年/2021年 製作国/日本

公式サイト

https://moeyoken-movie.com

 

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隆次郎太郎りゅう じろうたろう

朝ドラ、大河ドラマを好んで観る。印象深い作品は『風と雲と虹と』『北条時宗』『澪つくし』『カーネーション』『半分、青い。』『スカーレット』。和田勉作品の『けものみち』『天城越え』も好きです。趣味は地形を味わいながらの散歩。

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