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実話に基づく映画『クーリエ』が明かす、キューバ危機を救った知られざる男たち

歴史を楽しむ「映画の時間」第20回 

ケネディVSフルシチョフ! 核兵器の開発を競う東西両国と第3次世界大戦始まりの予感

© 2020 IRONBARK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 9月23日より公開される映画『クーリエ:最高機密の運び屋』は、1962年10月、アメリカ合衆国とソビエト連邦の間で高まった軍事的緊張「キューバ危機」を描いている。

 

 第2次世界大戦を経て超大国となった東西両国は1950年代に入り競うように核兵器を開発し、やがてそれは人びとに人類滅亡の危険を孕んだ第3次世界大戦の始まりをも予感させていた。

 

 ソ連は1959年の革命で親米政権が倒れたキューバに接近し、ミサイル基地の建設を始める。〝アメリカの裏庭〟といわれたキューバ島での核配備が進めば、それはすなわちワシントンD..に直接、核攻撃が可能になることを意味していた。

 

 その、発火寸前の世界を未然に救った男たちがいたのだ。

 

 いかにも映画的だが、実話である。

 

イギリス諜報機関MI6がスカウトしたのは諜報とは無縁のセールスマンだった

© 2020 IRONBARK, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

 主人公はイギリス人のグレヴィル・ウィン。チェコ、ハンガリーといった東欧諸国で旋盤などの工業製品を売るセールスマンだ。扮するのは、TVシリーズ『SHERLOCK』でシャーロック・ホームズを演じたベネディクト・カンバーバッチ。

 

 そしてもう一人の主人公、GRU(ソ連参謀本部情報総局)の上級将校オレグ・ペンコフスキーを『名もなきアフリカの地で』のメラーブ・ニニッゼが演じる。

 

 米ソ冷戦時代、アメリカを中心とした西側の資本主義陣営と社会主義を掲げるソ連と東側諸国は、東西ドイツ、南北朝鮮、そして南北ベトナムと世界各所で分断や間接的戦争を起こし激しく角逐(かくちく)していた。

 

 ペンコフスキーは世界の空気に揮発性が高まった時期――1961年4月から1962年8月までの16ヵ月間に、新型戦術ミサイルの設計図やミサイル配置図、ロンドンに送られたソ連情報機関の秘密駐在員の名前など、まさにソ連の機密情報を提供することになる。

 

 その彼の動きに呼応しイギリス諜報機関MI6がスカウトしたのがグレヴィル・ウィン。諜報とは無縁のセールスマンを機密の〝運び屋(クーリエ)〟に選んだのだ。

 

ソ連参謀本部上級将校は、なぜ機密情報を西側に渡したのか?

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 この映画にはクールな暗殺者も謎の美女も登場しない。見せるのは社会主義国の雑踏に埋め込まれた監視の目をくぐりながら、赤いカーテンに覆われた世界の実情を広く自由社会に知らしめようとする男の姿と、水面下で音もなく鳴動する世界の現実だ。

 

 ペンコフスキーは命の危険を冒しながら、なぜこのような行動を続けたのか。

 

 日本では1966年に出版された『ペンコフスキー機密文書』(フランク・ギブニー編/佐藤亮一訳)のなかでその意志が垣間見える。

 

《私は、彼ら(註:ソ連軍隊の上層部や一般将校)の党や共産主義に対する賛美が、口先だけのものであるのを悟った。彼らは、私生活においては嘘をつき、あざむき、互いにたくらみ合い陰謀を企て密告し、互いを滅ぼし合っている。金と自分たちの出世を求めて、彼らは友人や同僚についてKGBの密告者となる。彼らの子らは、ソ連のものはすべて軽べつし、外国映画しか見ず、そして庶民を見くだしている。/われわれがおよそ四十五年に渡ってつくりあげてきたところの共産主義は、偽物である。私自身もこの偽物の一部である。(略)私は、自問自答してみた。私は私自身をののしってみた。ついに私は、われわれが「わが共産主義社会」と呼ぶものは、一つの欺瞞にすぎないのだと信ずるに至った》

 

 同じ書で、グレヴィル・ウィンはペンコフスキーを次のように評している。

 

 《ソ連の政治には、彼は悲痛な思いさえしていた。彼はソ連政府の悪事や、ソ連にいる彼の友人たちの苦悩や不幸について語るとき、いつも涙を流していた。/私は彼を知れば知るほど、オレグ・ペンコフスキーという人間は、非常に高潔な人物であることに気がついた。彼は積極的な人物だった。彼はよく英語でいった――「私にはよくわかる」/彼は要するに、彼にできることをしただけなのだ。一個の人間として、自分の祖国の品位を堕落させている制度に一撃を加えるのが、彼にできるただ一つの方法だったのだ。彼は私と会った最初から、この基本的な決意を変えなかった。/彼が私と最初の接触をする前に、数ヵ月間いろいろと考えていたようだ。彼は正当な理由を信じていたがために、自ら進んでスパイ行為に出、この孤独な生活の恐るべき緊張に飛び込んだのだ》

 

二人のリーダー、ケネディVSフルシチョフの影で人類存亡の危機を救った男たち

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 アメリカ大統領ジョン・F・ケネディとソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフは、最悪のシナリオを前に踏みとどまり、結果、危機は回避されている。フルシチョフは「キューバへの攻撃をケネディが宣言する」との情報に触れると、その直前にミサイルを撤去する決断を下したのだ。

 

 史上、キューバ危機は人類の存亡という大きなドラマの、二人のリーダーの姿ばかりが語られてきた。しかしそこにはキューバ島で進む核配備を報せた男たちがいた。

 

 あまりにも大きな構えの物語の中で、一見すると目立たず、それでいて梁のように不可欠なものがあったことをこの映画は教えてくれている。

 

 

 

【映画情報】

9月23日(木曜日・祝日)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国公開

『クーリエ:最高機密の運び屋』

 

監督/ドミニク・クック

出演/ベネディクト・カンバーバッチ、メラーブ・ニニッゼ、レイチェル・ブロズナハン、ジェシー・バックリー、アンガス・ライト、ジェリコ・イヴァネク、キリル・ピロゴフ、アントン・レッサー、マリア・ミロノワ、ウラジミール・チュプリコフ

時間/112分 製作年/2021年 製作国/イギリス・アメリカ合作

公式サイト

https://www.courier-movie.jp/

 

 

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隆次郎太郎りゅう じろうたろう

朝ドラ、大河ドラマを好んで観る。印象深い作品は『風と雲と虹と』『北条時宗』『澪つくし』『カーネーション』『半分、青い。』『スカーレット』。和田勉作品の『けものみち』『天城越え』も好きです。趣味は地形を味わいながらの散歩。

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