朝ドラ『あんぱん』「結婚十訓」の衝撃の内容とは? “早く結婚して子を産め”という国の少子化対策
朝ドラ『あんぱん』外伝no.25
NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第8週は「めぐりあい わかれゆく」が放送中だ。朝田のぶ(演:今田美桜)が母校の御免与尋常小学校の教師になって1年半。のぶは生徒たちに愛国の心を教え込み、周囲からの評判も上々である。もうすぐ20歳を迎えるのぶのもとには、国防婦人会のご婦人方が押し寄せて「結婚十訓」を掲げ、お見合いを進めてきた。さて、この「結婚十訓」とはどのような内容だったのか、当時の状況とともに解説していく。
■優生思想に基づいて「結婚して優秀な子を産み育てよ」という国
昭和14年(1939)9月、時の阿部内閣厚生省は、ナチス・ドイツの「配偶者選択10か条」にならって「結婚十訓」を発表した。背景には、昭和12年(1937)から続く日中戦争や満蒙開拓移民等による出生率の大幅な低下がある。内容は以下の通りだ。
1:一生の伴侶として信頼できる人を選べ
2:心身ともに健康な人を選べ
3:悪い遺伝のない人を選べ
4:お互いに健康証明書を交換せよ
5:近親結婚はなるべく避けよ
6:晩婚を避けよ ※なるべく早く結婚せよと記載されることも
7:迷信や因習に捉われるな
8:父母長上の意見を尊重せよ
9:式は質素に届出は当日に
10:産めよ育てよ国の為
この第10条を元に、「産めよ殖やせよ国の為」が一種のスローガンとなった。その他「産児報国」「結婚報国」なども呼びかけられた。要は「結婚、出産し、子を育てることこそが国家に報いることになる」ということである。もちろんこの呼びかけの対象は女性のみではないが、結局出産で心身に負荷がかかるのは女性だった。将来的に国を支える子どもを増やすために、とにかく早く結婚して、子供を産めというのである。
昭和15年(1940)には三越デパートに国立の「優生結婚相談所」が設置され、国を挙げて結婚の斡旋や結婚資金の借り入れに関する相談に乗り出すほどだった。
そしてこの結婚十訓が特に念を押しているのが「健康な伴侶を得ること」である。2条、3条、4条、5条はいずれもこれを強調しているのだ。4条に至っては「悪い遺伝のない人を選べ」とまで書いている。これはひとえに「優生思想」に基づくものである。国は少子化に直面し、「心身ともに優秀な子を産み育てよ」と、声高に叫び続けた。
こうした時代背景もあって、「結婚していない(行き遅れの)女性や子を産んでいない女性は国家に対して貢献していない」という理不尽な思考が広まったのも仕方のないことだった。“非国民”と差別されるほどでなくとも、結婚適齢期で健康な女性が未婚であることは、当時周囲から凄まじいプレッシャーをかけられる状況だったのだ。

厚生省予防局『国民優生図解』より