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朝ドラ『あんぱん』“石女”として差別された黒井雪子 子を産めない女性は用なしという地獄

朝ドラ『あんぱん』外伝no.24


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』、第7週は「海と涙と私と」が放送された。女子師範学校卒業を控えるのぶ(演:今田美桜)だが、入学以来ずっと嵩(演:北村匠海)から定期的に手紙が届いていたことを見咎められ、黒井雪子(演:瀧内公美)に「やはりあなたは弱い」と叱責される。のぶが黒井に「なぜ教師の道を選んだのか」と問うと、黒井は自身の過去を語った。そこには、かつての、そして現在の女性が抱える差別が潜んでいた。


■子を産めない女性を「石女」と呼んで差別

 

 作中で黒井は「女子師範学校を卒業して結婚したが、3年子どもができなかったために婚家を追われた」と語った。当時これは珍しくもなんともなく、むしろ「当然」のことだった。「嫁して3年、子なきは去れ(る)」などという言葉もあるほどで、家制度においては家を継げる子を産むことこそが女性の使命と考えられていたのである。

 

 当時の家制度では「戸主」になれるのは原則男子だったが、女子でも女戸主として家督を相続すること自体は可能だった。もちろん望まれるのは男子だが、子さえ産まれれば一応は安泰ということになる。

 

 余談だが、華族制度においては女戸主は認められていても、爵位を継ぐことはできなかった。実際、一家の主が亡くなったために妻が戸主となったが、爵位は返上するしかなかったという例もある。

 

 さて、夫婦に子ができないと、妻のことを「石女(不産女)/うまずめ」という蔑称でけなし、執拗に嫌がらせをするなどして追い込むケースが少なくなかった。こうした差別によって、一方的に離婚を言い渡される女性の悔しさや悲しさは筆舌に尽くしがたいものがある。

 

 仏教の世界では子供を産めなかった(産まなかった)女性が堕ちるとされる「石女地獄」なるものまである。ここでは細く柔らかい紐を持ち、竹の根(男根を表す)を掘らされるという。これは「生産性がないこと」をさせることが罰になるということだろう。

 

 子ができないことを理由に婚家を追われた女性にとって、再び縁談が持ち上がることは容易ではなかった。もちろん再婚し、そこでは子に恵まれた(前の婚家では夫側に不妊の原因があった)というケースもある。一方で、その機会に恵まれず、実家(親が亡くなった後は男兄弟の世話になる)でひっそり陰口に耐えながら暮らすしかない女性もいた。

 

 作中の黒井の場合、「女(嫁)としての価値がない」という烙印を押された後、周囲からの評価をはねのけて生きるために、女子師範学校に通った経験を活かして教員になったのかもしれない。日清・日露戦争以降、愛国精神を尊ぶ傾向が強まり、将来の国を担う子の教育に邁進する教員もまたその重要性を高めていった。軍国主義という強い思想を自分の軸にして、誇り高く懸命に生きようとする当時の女性を表現したのが、黒井雪子という人物だったように思える。

イメージ/イラストAC

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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