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新選組の猛烈な内部粛清の犠牲者か⁉ 新選組のあだ花だった谷三十郎・万太郎・周平

新選組隊士の群像【第7回】


「新選組」は、池田屋事件、禁門の変など幕末の京都で、戦い続けその間に、近藤勇(こんどういさみ)、土方歳三(ひじかたとしぞう)など多くのスター剣士を誕生させたが、名もなく死んでいった隊士や、活躍したもののあまり知られていない隊士も数多い。そうした「知られざる新選組隊士」の前歴や入隊の動機、入隊後の活躍、関わった事件や近藤・土方らとの関係、その最期まで、スポットを当ててみた。第7回は谷三兄弟の栄光と没落に迫る!


 

谷三十郎の暗殺は、『燃えよ剣』(司馬遼太郎)など新選組を題材にした小説に描かれることも多い。酔った三十郎が斎藤一の一刀両断される描写は、利用価値がなくなった隊士は次々に粛清される、新選組という組織の本質を浮び上がらせる。写真は祇園の路地裏(京都市東山区)

 

 谷三十郎(たに さんじゅうろう/1832~66)は、備中・松山藩士の嫡男である。藩の旗奉行で120石取り、直心流剣術の師範である父・三治郎から、武術を学んだ正統の武士であった。三十郎は、藩主・板倉勝浄の近習を務めたが、次弟・万太郎(まんたろう)が起こした不祥事(女性問題だとされる)によって家名を断たれ、末弟・周平(しゅうへい/昌武)とともに3兄弟は浪人となった。

 

 兄弟ながら全くタイプの違う3人であったが、共に大坂に出た。南堀江町で次弟・万太郎は道場を開き、父親譲りの種田流槍術と剣術を教え、三十郎も直心流と神明流の剣術を指南した。新選組に加入した時期や経緯は不明ながら、文久3年(1863)頃には3人揃って入隊していたと思われる。というのも、翌年の池田屋事件で活躍したことが褒賞リストなどから分かっているからである。また一説には、万太郎が種田流槍術を原田左之助(はらださのすけ)に教授したといい、その伝手があっての入隊ともされる。

 

 三十郎は、副長助勤から7番組組長という立場に出世している。さらに末弟・周平は、近藤からその腕を見込まれて、近藤の養子になっているほどである。また三十郎・万太郎は、新選組隊士でありながら大坂に道場を構えたままであった。これは、大坂にいる尊攘派の不逞浪士の動向を調べるためで、言い方をかえれば新選組の大坂分署的な役割を果たしたのだった。こうして谷3兄弟は、新選組の幹部の地位を得ている。

 

 慶応元年(1865)1月、大坂分署にいた三十郎は探索の結果、尊攘派浪士たちが大坂市中に放火して騒ぎを起こす計画を企てていることを知った。ちょうど、末弟・周平が近藤の養子になったばかりの頃で、兄2人は、この末弟の株を上げるためにも、と張り切って手柄を立てようとした。2人は腕利きの門弟2人を連れて、不逞浪士が潜伏する石蔵屋というぜんざい屋に踏み込んだ。

 

 ところが浪士たちは出払っていて、当主・政右衛門(まさえもん)と使用人・大利某の2人しかいなかった。政右衛門は逃亡し、大利某は脇差しを振るって必死に抵抗した。三十郎ら4人は大利をやっとのことで仕留めたが、三十郎は足に傷を負ってしまった。だが、いずれにしても大坂を火の海にするという尊攘派の陰謀を未然に防いだ功績は、近藤・土方らも認めた。

 

 谷3兄弟は、こうした功績の割に隊士の間で信望はなかった。末弟が近藤の養子になったということもあって、徐々に高慢な態度を示すようになっていたからであった。それでいながら、三十郎はある隊士の切腹の介錯(かいしゃく)を任された時に、その隊士の首を切り損ねて血の海になってしまった。見かねた斎藤一(さいとうはじめ)が換わって介錯したが、これが隊士の間に微妙な臆測を生んだ。「三十郎は本当に腕が立つのか」という疑念であった。

 

 こうして隊内で反感を買っていた上に、浮き上がった存在になった三十郎だった。慶応2年4月、祇園石段下で三十郎の死体が発見された。頓死(とんし)とされるが死因は3説ある。

 

①谷兄弟の専横に手を焼いた近藤が斎藤一に殺させた

②酒の上での喧嘩で殺された

③大酒飲みだった三十郎だったから卒中による急死、というものだが不明のままである。

 

 なお、万太郎の消息も三十郎死後は不明。末弟・周平も後に近藤から養子を離縁された。明治維新後、警官になったりしながら明治34年(1901)まで生き延びたという。

 

 新選組の徒花(あだばな)のような谷3兄弟であった。

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過去記事

江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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