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浦島太郎が魚を妊娠させた?! ユニークすぎる人魚話の世界

日本史あやしい話1

 

■各地に伝わる人魚伝説と人魚のミイラ

 

 もちろん前述したようにこのお話、作り話であるから、笑い飛ばしてしまえばそれでおしまいのはず。しかし、このほかにも、人魚にまつわる伝承は日本各地に数え切れないほど点在する。さらには実在の歴史上の人物まで絡んでくることも少なくないから、見過ごすことができないのだ。

 

 たとえば、聖徳太子に仕えた秦河勝(はたのかわかつ)の孫・勝道(かつどう)の娘が八百比丘尼となった、という伝承もある。

 

 文武天皇に仕えていた勝道が、讒言(ざんげん)によって会津に流された後、当地の村長の娘と結婚。千代姫が産まれた。ある夜、勝道が竜宮城へと招かれ、そこで出された九穴の貝を持ち帰ったところ、娘の千代姫がこれを食べてしまった。そして、娘はいつまでも老けることなく生き長らえたという。

 

 ただし、ここでは人魚の肉が九穴の貝、つまりアワビに置き換えられていることに注意しておきたい。後にこの千代姫が創建したのが、福島県喜多方市の金川寺だったとか。

 

■人魚伝説の“物的証拠”

 

 鎌倉時代の説話集『古今著聞集』に記された話もある。平清盛の父・忠盛が伊勢国別保(津市)へとやってきた時のこと。地元の漁師が釣り上げた3匹の人魚のうち2匹を忠盛に献上。残る1匹を自分たちで食べてしまったとか。

 

 人魚が涙を流して命乞いするのも顧みず、呆気なく食してしまったというから、なんとも残酷である。ただし、味は格別だったという。なお、人魚の骨は下血を止める働きもあるとかで、かの江戸時代の国学者・平田篤胤(あつたね)が人魚の骨を削って水に浸して飲んだとも伝えられている。

 

 ほかにも、人魚の出生地および入定の地が福井県小浜市だったとか、滋賀県佐久良川の小姓ヶ淵の田畑に人魚が水を汲み入れて人々を救ったとの伝承もある。隠岐の島には、人魚を食べた八百比丘尼が植えたという八百杉(国の天然記念物)までもが現存しているから驚きである。

 

 人魚のミイラが各地で発見されていることも付け加えておきたい。岡山県浅口市の円珠院をはじめ、滋賀県東近江市の成願寺や新潟県柏崎市の妙知寺、静岡県富士宮市の天照教社、香川県琴平町の金比羅宮、和歌山県高野町の苅萱堂等々、数え切れないほどの人魚のミイラ伝説が伝えられているのだ。

 

 各地に残るミイラが本当に半人半魚なのか、いずれ真偽の裁定が下されることになるかもしれない。真相を知りたい反面、謎は謎のままそっとしておいて欲しい気もしている。

 

・画像…京傳 作『箱入娘面屋人魚 3巻』,蔦唐丸,[寛政3 (1791)]. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/9892706 (参照 2023-05-11)

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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