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浦島太郎が魚を妊娠させた?! ユニークすぎる人魚話の世界

日本史あやしい話1


人魚は実在したのか? もちろん定かではない。食すと1000歳まで長生きできるというのも怪しい。さらには、「人魚の父が浦島太郎で、母が魚の鯉(こい)だった」とまでいわれれば、もはや呆気にとられるばかりである。それでも人魚伝説は各地に数限りなく、そのミイラまでもが実在している。あらためて、人魚にまつわる物語や伝承について見ていこう。


 

■浦島太郎が遊郭へ!?

 

『人魚御なめ所』で舐められる人魚

 

 人魚といえば、上半身は人間、下半身が魚という半人半魚の生物である。この肉を食すと1000年も寿命が延びると言われる反面、これを殺すと祟り出て大地震を巻き起こしてしまうとか。

 

『日本書紀』の推古天皇27年の条に、おそらく人魚のことと思える一文が記されている。近江国の蒲生川で「形は人のよう」なものが浮かび上がり、摂津国の堀江でも「形は赤子のようで」「魚でもなく人間でもない」生き物が網にかかったという。

 

 現代なら「人魚はジュゴンあたりの生き物だった」などと想定してしまうが、それではつまらない。ではその人魚が、もし「浦島太郎の子であった」とすればどうか? 何やら、俄然興味が湧いてくるのは筆者だけではあるまい。

 

 実は、竜宮城で遊び呆けていた浦島太郎、美女を見飽きたのか、つい、乙姫さまの目を盗んでこっそり抜け出してしまったとの話がある。

 

 行き先は、利根川茶屋。いうまでもなく、遊郭である。そこの遊女の「鯉(もちろん魚の鯉)」と懇ろになったというからビックリ。挙句、孕ませてしまったという。どのように孕ませるのか、真面目に考えるとバカバカしいので詳細は記さないが、ともあれ、その果てに生まれたのが人魚だったというのだ。

 

 もちろん、史実ではない。このお話、実は江戸時代の戯作者・山東京伝が著した『箱入娘面屋人魚』内に記された物語、つまり作り話であることをまずもって断っておきたい。

 

■エロスあふれる京伝の人魚

 

 当然のことながら、人間と魚の鯉が結ばれて人魚が生まれるなど、ありえる話ではない。それでも、発想が奇抜で、つい話に引き込まれてしまうのだ。続きを見ていくことにしよう。

 

 人魚が生まれて驚く浦島太郎。どう思ったのかはわからないが、残酷にもこれを海に投げ捨ててしまったという。そして、その人魚を釣り上げたのが、神田の漁師・平次であった。平次は驚くが、それでも、よく見ると、とびっきりの美人である。その美しさに惹き込まれて、とうとう妻にしてしまったという。

 

 さて、人魚の肉を食べると長生きできるという話は有名だ。いつまでも若さを保ち、挙句、八百歳という驚くべき長寿となった八百比丘尼の伝承までもが各地に伝えられている。

 

 山東京伝も、この長寿伝説をちゃっかり物語に取り入れた。ただし、肉を食すのではなく、「舐める」という少々艶っぽい話に変えたところが、黄表紙の作者らしい処遇である。もちろん、人魚の夫・平次も、妻である人魚を舐めまくった。すると、どんどん若返った挙句、とうとう子供になってしまったとか。

 

 そして物語の最後は、人魚の下半身、つまり魚の部分がポロリと剥がれて人間の姿になる。残った魚の抜け殻を売って大儲け。その後二人は、いつまでも幸せに暮らした……とまあ、呆れるほど奇想天外な展開の末、物語の幕を閉じてしまうのである。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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