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信長は本当に叔母・おつやの方を逆さ磔にしたのか?

鬼滅の戦史121


戦国時代に、4度にもわたって政略結婚させられたおつやの方。織田信長(おだのぶなが)の叔母でありながら、信長の勘気に触れて、逆さ磔(はりつけ)という残酷な刑罰で殺されてしまったという。武田信玄(たけだしんげん)との抗争の中で巻き起こったこの残虐な行為は、いったいどのような経緯で行われたのだろうか?


 

岩村城の女城主となった信長の叔母

おつやの方が城主となった岩村城跡(岐阜県恵那市岩村町)。壮観な六段壁がその威容を伝える。

 織田信長の叔母に、おつやの方(艶)と呼ばれる女性がいた。信長の祖父・信定(のぶさだ)の娘である。叔母とはいえ、信長より年齢は下。信長の命によって、岩村城主・遠山景任(とおやまかげとう)に嫁いだが、それは彼女にとって、結城(ゆうき)城主・日比野清実(ひびのきよざね)や信長の家臣(名は不明)に次ぐ3人目の夫であった。

 

 いずれも、自らの意志とは無縁の政略結婚である。悲しいことではあるが、この時代の戦国武将の娘たちにとって、それが宿命といえるものであった。

 

 この景任が拠点としていた岩村城(岐阜県恵那市/えなし/岩村町)は、美濃(みの)、信濃(しなの)、三河(みかわ)、尾張(おわり)の国境にあたるところで、戦国武将たちにとっては垂涎(すいぜん)の地。勢力争いの最前線というべき要衝であった。信長にとっても、信濃を制圧して勢力を西へと拡大しはじめた武田信玄を食い止めるためにも、この地を確保することが是が非でも必要なことであった。

 

 そこで、当地を治める景任(元は武田氏に与していたが、織田氏にも接近する姿勢を見せていた)に、叔母のおつやの方を嫁がせて味方に引き入れ、防衛の要にしようとしたのであった。

 

 ところが、おつやの方が景任に嫁いだ後の1571年、頼みの綱としていた景任が病没してしまった。二人の間に子がなかったため、信長が五男の御坊丸を養子として送り込んで、岩村城主としたのである。ただし、御坊丸はこの時、まだ5〜6歳。おつやの方が後見となって、城主を代行せざるを得なかったのだ。仮とはいえ、女城主の誕生である。

 

投降兵の命を保証する代わりに敵将の妻に

 

 その翌年の1572年10月、ついに武田信玄が、上洛を前に配下である秋山信友(あきやまのぶとも)を送り込んで、岩村城を攻めはじめた。秋山信友といえば、武田二十四将の一人。さすがに気丈夫なおつやの方とはいえ、城を守り通すことができず、ついに信友に降伏。ただし、家臣たちの命を保証する代わりに、おつやの方が信友の妻になるという条件付きであった。

 

 勝者がわざわざ妻にしたいと願うほどだから、よほどの美女だったのだろう。問題は、これに加えて、本来の城主である信長の五男・御坊丸を、人質として甲斐の信玄の元に送るというものであった。もちろん、信長が激怒したことは言うまでもない。嫡男である信忠を大将とする大軍を送り込んで、信友が占拠した岩村城に攻め込んできたのだ。

 

5カ月にもわたる攻防の末、今度は信友が降伏。その時の条件として持ち出したのが、前回とは逆に信友側の兵やその家族の命を保証してくれというものであった。

 

信長が約束を破っておつやの方を逆さ磔に

 

 この条件を、信長は了承した。ひとまず、そう約束したのである。ところが、殺される心配がないと安堵した兵たちが次々と城を出たところで、信長はその約束を破った。兵たちを待ち伏せして次々に殺してしまったというから、何とも卑怯かつ、残虐である。

 

 そればかりか、降伏した信友と、その妻となったおつやの方共々、長良川の河川敷に引きずり出して、逆さ磔にして処刑してしまったというからおぞましい。一説によれば、信長自身が叔母を切り捨てたと言われることもある。何はともあれ、このような虐殺者を英雄視して崇(あが)め奉ることなど、本来、あってはならないのだ。

 

 ちなみに逆さ磔とは、逆さまに磔(はりつ)けられたまま放置されるという酷い刑罰で、3日3晩地獄の苦しみを味わった挙句、身体中から血が吹き出し、最終的には目玉まで飛び出るとか。

 

 さすがにこの仕打ちに耐えかねたおつやの方も、「叔母をもかかる非道の目に合わせるとは、信長よ、必ずや因果の報いを受けん!」と言い放ったという。もちろん、恨みが募って、祟(たた)り出たとしても不思議ではない。のちに本能寺の変で信長が殺された原因を考えたときに、どうしても彼女の祟りが思い起こされるのである。

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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