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舌で互いに感じさせる「なめる」という行為【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語㊱

現代まで使われているもの、意味が変化したもの、まったく使われなくなったものなど「言葉」は時代とともに変化していくもの。ここでは現代では使われていない「江戸時代の性語」を紹介していく。


 

■なめる

 

 口淫(オーラルセックス)のこと。

 

 口淫には、吸茎(きゅうけい、フェラチオ)、舐陰(しいん、クンニリングス)、相舐(あいなめ、シックスナイン)があるが、話し言葉ではすべて「なめる」で表現した。

 

 図は、武士が吉原の花魁(おいらん)に、強引にクンニリングスをしているところ。花魁のいかにも迷惑そうな表情がおかしい。

 

【図】なめる男、なめさせる女。(『艶画四季時計』柳川重信二代、天保五年、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①春本『色能知功左』(喜多川歌麿、寛政十年)

 

 男が、「本当に好きなら、なめさせるはず」と、女にクンニリングスをさせてくれと、せがむ。すると、女が言う。

 

「なめさせるが信実なら、思入れ、なめてくんな。そして、吸ってくんな。腰から下はおめえに明け渡したから、どうとも好きにしなせえ」

 

 女はふてぶてしい。男が自分に夢中なのを心得ている。

 

 

②春本『新曲枕表紙』(英泉風、文化十五年)

 

 まず時次郎が、遊女浦里にクンニリングスをする、

 

「いっそのこと、思うさま、なめてやろう」

 と、股座(またぐら)へ、ぐっと顔を突っ込み、さねがしらをちょいちょいと、舌でいただいて、左右をなめまわし、または舌を奥へ入れ、さまざまとなめまわされ、

「ああ、もう、いっそ、いきんす」

  (中略)

 浦里も、

「今度は、ぬしのを、なめいしょう」

 と、また時次郎が陰茎(へのこ)を口へ含み、鈴口から雁のまわりを、いろいろなめまわされ、

 

 浦里がお返しに、時次郎にフェラチオをする。

 

 

③春本『婦男愛添寝』(丘亭春信)

 

 男が女に、シックスナインをしようと言う。

 

「いいことがある。たがいに、開(ぼぼ)と魔羅をなめっくらをしよう」

「なめるのかえ」

「いやか」

「いいえ、いやじゃあ、ねえのさ」

 

 ためらいながらも、男の意に応じようとする女がいじらしい。

 

 

④春本『逢夜鳫之声』(歌川豊国、文政五年)

 

 シックスナインをしているうち、またもやきざしてきて、

 

女「あれさ、なめたら、また気が悪くなってきた。さあ、さあ、また入れようじゃねえか。ええ、真に真にかわいいのう」

男「さてさて、開(ぼぼ)というものは、酸いような、塩っ辛い、生臭いような、変なものだ。鼻の穴へ開の毛が入って、ええ、はぁくしょい、糞を食らえ」

 

「気が悪くなる」は、第五回を参照。

 

 女が積極的なのに、男はたじたじのようだ。

 

 

⑤春本『逢身八契』(歌川国貞、文政十年)

 

 男が、女の股を広げて局部を見つめる。

 

女「あれさ、およしよ。こんな汚い所を、お見でないよ。ひょっと、愛想が尽きて、これぎりにでもなると、いやだよ」

男「かわいいとも、いとしいとも、言いようのないように惚れたてめえのことだものを。汚いどころか、ありがてえは。どれ、心中になめてみしょう」

 

「心中」は、気持ちが本当であることを示す証拠のこと。男は自分の気持ちを示すため、クンニリングスをするという。

 

 なお、女が自分の陰部を汚いと評するのは、日本女性の謙虚さ、つつましさである。

 

 

⑥春本『寝覚床幾夜廼睦言』(歌川国貞二代、安政二年)

 

 セックスを終えたあと、女が男にしみじみ言う。

 

「ほんに、いつもながら、達者なことだね。これだから、おまえのを食べた者は新造でも年増でも、なかなか忘れはしないよ。よっぽど、おいしいと見えるねえ。どれ、どんな味か、ちょっと、なめてみよう」

 

 女はフェラチオをする。

 

「新造」は、若い娘のこと。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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