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江戸時代に大人気だった媚薬「長命丸」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語㉞

現代まで使われているもの、意味が変化したもの、まったく使われなくなったものなど「言葉」は時代とともに変化していくもの。ここでは現代では使われていない「江戸時代の性語」を紹介していく。


 

■長命丸(ちょうめいがん)

 

 長命丸は、もっとも有名な媚薬(びやく)である。

 

 しかも、長命丸といえばすぐに四ツ目屋、四ツ目屋といえばすぐに長命丸が思い浮かぶほどだった。

 

 ただし、使用法や効能には不明な点が多い。春本や春画の中の、一種のファンタジーであろう。

 

 図は、大坂の新町の四ツ目屋である。女が男に手渡している紙包みに「長命丸」と書かれている。

 

【図】『婀娜枕仮寝夢後編』(浪速男一物、国際日本文化研究センター蔵)

 

【用例】

①戯作『魂胆色遊懐男』(江島其碩著か、正徳元年頃)

 

 好色人の重宝薬、長命丸とて……(中略)……男の婬精を保たしめ、女何十人会うても、此の薬を付けては漏らすこと夢々なく、床の慰みまた外になし。男、婬水を漏らさんと思うときは、水を一口飲めばたちまちゆくこと、書付に嘘はなく、今もっぱら世界の好き人、買いはやらかして、諸々の薬種屋にこれをたしなみ、毎日だいぶんに売ることぞかし。

 

 効能が明らかにされている。

 

 長命丸を亀頭に塗って性交すれば多くの女と交わっても射精することはない。射精したいときには、水を一杯飲みさえすれば、男は心地よく気をやることができる、と。

 

 にわかには信じがたい効能だが、その評判は高く、多くの薬屋で取り扱い、売れ行きは大きかったようだ。

 

 

②春本『地色早指南』(渓斎英泉、文政六年)

 

男「こんなに色々な薬を付けて、取り換え、取り換え楽しむは、どうもよっぽど楽しみだ。これから長命丸を付けてみよう。女悦丸では、そっちはよくっても、久しくこたえているには、長命丸ほどな物はない。それ、どうだ、いいか、いいか。そんなに体を動かすと、魔羅がちぎれるようになる。ああ、いい、いい」

女「ええ、もう、いつもより、おまえの物が火のように熱いから、どうもよくって、よくって。そして、いつもより大きくなったようで、ええ、もう、気が遠くなりますよ。ああ……」

 

 男の感想によると、長命丸を亀頭に塗って性交すると、早漏を改善するだけでなく、男の性感も増進するようだ。女悦丸より長命丸のほうがいい、と。

 

 もちろん、女の快感を高めるにも絶大な効果があるようで、陰茎がいつもより大きく、熱っぽいように感じるという。

 

 男にとっても女にとっても、性の悦楽を増進する。まさに、理想の媚薬といおうか。

 

 

③春本『艶色倭撫子』(北尾派風)

 

 夫婦が長命丸を用いて交わる。

 

妻「薬の加減でか、今宵のようなことは、ついに覚えませぬ。そこを、そこを、あれ、また、また」

夫「今宵中、乗りづめにして楽しむぞ。あまり泣きやんな。久介が起きると悪い」

 

 妻は薬の効果で快感が強いと述べている。

 いっぽう、夫は妻のよがり声が大きいので、奉公人の久介が目を覚ますのを心配していた。「泣く」は、女がよがり声をあげること。

 

 

④春本『回談情の山入』(菊川英山)

 

 大名が長命丸を用いて腰元と性交をした。腰元はいき続けだった。

 

「御前(ごぜん)さま、もう、おやり遊ばすか。今度は長命丸なしにいたしましょう。あまり、わたしが痛みます」

 

 女は、次は長命丸を付けずに挿入してほしいと懇願している。とりもなおさず、長命丸で感じ過ぎたということだった。

 

 オルガスムスを何度も経験したあげく、女はへとへとに疲れてしまったのである。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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