江戸時代はいとこ同士の結婚もあり⁉「いとこ同士は鴨の味」とは?【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語㉚
現在の常識では考えられないことが江戸時代では普通であることもある。「いとこ同士」の結婚は江戸時代、普通であったが、それが性に関する境域に及ぶとまた違った見方ができる。
■いとこ同士は鴨の味(いとこどうしはかものあじ)
「いとこ婚」とは、いとこ同士の結婚のこと。
時代によって、いとこ婚が禁止された国や地域もあった。というのは、いとこ同士は、ある人物の孫同士にあたる。そのため、近親婚とみなし、禁じたのである。
しかし、わが国では古来、いとこ婚はごく普通におこなわれてきた。
現在の法律では、三親等以内の結婚は禁止されている。だが、いとこは四親等のため、いとこ婚は現在でも合法である。
さて、ことわざに「いとこ同士は鴨の味」がある。その意味は、
「いとこ同士が夫婦になった時の情愛の深さは、鴨の肉の味わいのように極上」
というもの。
しかし、「鴨の味」をたんに性格の相性だけでなく、性の相性ととらえると、たちまち淫靡な色調をおびる。
図は、標題に『睦まじい夫婦』とある。鴨の味を堪能しているのであろうか。

【図】鴨の味。(『古能手佳史話』渓斎英泉、天保七年/国際日本文化研究センター蔵)
①春本『絵本笑上戸』(喜多川歌麿、享和三年)
兄が妹としながら、うそぶく。
「いとこ同士は蛸(たこ)の味がすると言うから、兄妹(きょうだい)は烏賊(いか)の味がするだろう。ほい、これじゃあ、間違った。いとこ同士は鴨の味がするというから、家鴨(あひる)の味がするだろう」
兄と妹の近親相姦なので、いわゆる畜生道である。
②戯作『清談若緑』(曲山人著)
お政は、美少年の金之介との仲を、ほかの女たちに冷やかされる。
政「おや、まあ、そうでございますか。ご存知あるかは知りませんが、あれは、わたくしの親類で、幼い時からきょうだいも同様にしておりましたから、べつにいい男だとも、何とも思いはいたしませんのさ。ほほほほ。あの人が、そんないい男でございますかね。見慣れていては、気がつきません」
女「そんなに白をお切りでない。いとこ同士は鴨とやら、鶩(あひる)とやらと言いますから、おおかた卵もお仕込みだろう。隠さずに話してお聞かせな」
「卵を仕込む」は、セックスを暗示していよう。
「さぞ、あちらの味もいいだろうね。話しておくれ」
というわけである。
鴨の肉は美味だが、脂っこい。濃厚なセックスを象徴していることになろうか。
③戯作『閑情末摘花』(松亭金水著、天保十二年)
娘のおちせは、知り合いの清之助に婚礼について尋ねられた。おちせは驚いて、なぜそんなことを聞くのかと問い返す。
清「ええ、なにさ、おまえさんのお婿(むこ)さまは上州桐生(きりゅう)とやらに決まっているから、もう近いうちに、あっちにおいでだと、米さんがお言いなすったから、それでさ」
ち「おや、嘘ばっかり」
清「なに、嘘なものか。桐生はおまえの叔父さんのところで、お婿さんはいとこ同士だから鴨とやらで、おまえはうれしがっておいでだ、というこったものを」
ト言われて、おちせは顔を少し赤くなし、
男も女も、いとこ婚を肯定的にとらえていたのがわかろう。
また、いとこ同士のセックスはまさに「鴨の味」だと、男女ともに理解していた。
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現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。