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【江戸の性語辞典】ムラムラする、性的に興奮することを指した「気が悪くなる」

江戸時代の性語⑤


現代では予想がつかない意味、または現代の意味とは異なるニュアンスで使われていた言葉が江戸時代はあった。言葉は時代とともに表現を変え、意味を変えていく──。ここでは江戸時代に使われていた「性語」にスポットをあて、当時どのように使われていたのか、という用例とともに紹介、解説していく。


 

■気が悪くなる(きがわるくなる)

 

 現代の感覚では、「気が悪くなる」は、不愉快になるや、気分を害するなどの意味に考えがちである。

 

 しかし、江戸では「気が悪くなる」は、むらむらすること、その気になること。つまり、性的に興奮する意味だった。

 

 当時、気が悪くなるは、男女のあいだで広く用いられた。

 

女の洗髪『江戸名所百人美女』(豊国・国久、安政5年)、国会図書館蔵

 

【用例】

①春本『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)

 

 右門(うもん)は十五、六歳の女だが、すでに男を知っていた。修行僧の願哲は右門を狙っていたが、男女があられもないかっこうで取り組んでいるのを知り、右門に現場を見せつける。

 

「右門どの、あれ見給え、あれあれ」

 と、襖越しにのぞかせ、気を悪くさせて、おっこかし、無二無三に入れかけるに、

 

 他人の性行為をのぞかせて、右門を興奮させ、願哲は強引にのしかかったわけである。

 

 当時、十五、六歳の女が男を知っているのは、べつに珍しいことではなかった。

 

 

②春本『多満佳津良』(葛飾北斎、文政四年頃)

 

 三十二、三歳の商家の女房が、十七歳の奉公人を誘惑し、性の手ほどきをする場面。

 

「これ、てめえ、まあ、女と寝たらの、じきに取りかからずにの、まあ、この手を出しや」

 と、手を持ち添え、

「これ、この乳をこうこうするとの、どんな女でも気が悪くなって、くすぐってえようで、いい心持ちでぞうっ、ぞうっとして……」

 

 女は奉公人に、乳房の愛撫の仕方を教えている。また、乳房を愛撫されると女はみな、興奮するのだと説明している。

 

 

③春本『華古与見』(歌川国芳、天保六年)

 

 新所帯の夫婦。昼間から春本をながめていた夫が、妻をさそう。

 

「これ、見ねえ。こんな気の悪くなる本を、いくらも内に置いて見るから、どうしても巧者だわな。それだから、とかく色事がじょうずで、どうも油断がならねえ」

 

 夫は春本で、その気になってきたわけである。また、春本を読んでいるから、性のテクニックも上達すると、ごたくを並べている。

 

 

④春本『即席情理通」(幕末期)

 

 男が女を愛撫している場面。

 

男「こう、女の髪の洗いたてほど気の悪いものはねえぜ」

女「あれさ、そんなに乳をいじっちゃあ、くすぐったいわね。また、乙な気持ちにする。憎いっちゃあねえよ」

 

 当時、女は滅多に髪を洗わなかった。洗髪はせいぜい一カ月に一度である。

 

 そのため、男は女の洗い髪姿に新鮮な魅力を感じ、性的な興奮まで覚えたのである。

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、図説吉原事典(朝日新聞出版)、江戸の性語辞典(朝日新聞出版)など。

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