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【加賀騒動】成り上がり者を追い落とし、加賀100万石の藩主毒殺を計った御家騒動(加賀藩/石川県)

江戸時代の「御家騒動」事件簿 【第4回】加賀騒動(加賀藩/石川県)


外様大名(とざまだいみょう)の中でも最大の実力をそなえた加賀藩に激震が走った。新しく藩主になったばかりの8代・前田重熈(まえだしげひろ)の毒殺事件である。黒幕ともくされたのは、先々代の藩主・吉徳(よしのり)の側室と、藩重臣の大槻伝蔵(おおつきでんぞう)であった。その真相とは?


加賀騒動は、伊達騒動、黒田騒動とともに。江戸時代の三大御家騒動といわれた。事件そのものは出頭人であった大槻伝蔵を失脚させるための陰謀であったとする説もある。写真は加賀藩前田氏の居城・金沢城。

 寛延元年(1784)夏、加賀藩江戸屋敷で、8代藩主・前田重熈の毒殺未遂事件が起きた。調査の結果、犯人は江戸藩邸の中老・浅尾であり、先々代の6代藩主・吉徳の側室の1人・真如院の命令でやったことを白状した。真如院(しんにょいん)には吉徳との間に2人の息子がいて、藩主に事あれば、その後を継承できる立場にあった。真如院はすぐに金沢に送られて幽閉され、取り調べを受け、一切を拒否した。だが、所持品検査の結果、既に失脚していた前の重役・大槻伝蔵朝元(とももと)との密通を示す書状が発見された。真如院は、密通を認め終身禁固の身となった。

 

 実はこの御家騒動は、諸説が入り乱れ、今に至るも真相は不明という不思議な事件であった。

 

 真如院と不義密通したという大槻伝蔵は、6代藩主・吉徳に召し出されて足軽各身分の「坊主・50石」という身分から加増を重ね、ほぼ20年間に知行3800石という高禄(こうろく)に至った。加増回数は21回を数え、前田家累代の老臣・重役8家に次ぐ出世頭となった。この伝蔵の出世の背景には、藩主・吉徳との男色関係があったとされる。

 

 だが、そればかりではなく、実質的にも伝蔵は加賀藩の藩財政建て直しを計っている。つまり経済官僚としての活躍を認められたことも出世の背景にはあった。

 

 だが、いつの世にも実力がないくせに「新参者」「成り上がり」を嫌う風潮はあり、加賀藩でも本多・横山・前田など門閥政治を続けてきた宿老8家が、藩主・吉徳と伝蔵との政治を批判するようになった。特に藩権力の中枢から退けられたことに不満を募らせた宿老の急先鋒に立ったのが、藩祖・前田利家(まえだとしいえ)の2男・利政(としまさ)の系譜に繋がる名門・前田直躬(なおみ)であった。直躬は、伝蔵を謗(そし)っても吉徳から相手にされないことから、世嗣(せいし)・宗辰(むねとき)に伝蔵の弾劾文を提出したが、却って藩主・吉徳を怒らせて、年寄りの職務を奪われてしまった。

 

 藩主と重役の確執が続くこんな時期に、吉徳が死亡した。宗辰が7代藩主に就任すると直躬らは政局を握り大槻伝蔵を失脚させ五箇山(ごかやま)へ流刑とした。その直後に宗辰が急死し、8代藩主として重辰の弟・重熈が就任。その後に毒殺未遂事件が起きたのである。

 

 毒殺未遂から始まった御家騒動は、側室(真如院)と元重役(大槻伝蔵)の密通事件で終わった。伝蔵は、この年9月に配流先の五箇山で自刃(じじん)して果てた。真相は伝蔵側からは語られないままの自刃であった。

 

 伝蔵を処分して真如院を幽閉した前田直躬らの目的は達せたが、その後、加賀藩では8代・重熈、9代・重靖(しげのぶ)と相次いで藩主が若くして死亡した。これが幽閉後間もなく死亡した真如院や伝蔵の祟(たた)りだという噂が加賀・前田藩内には流れたという。

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江宮 隆之えみや たかゆき

1948年生まれ、山梨県出身。中央大学法学部卒業後、山梨日日新聞入社。編制局長・論説委員長などを経て歴史作家として活躍。1989年『経清記』(新人物往来社)で第13回歴史文学賞、1995年『白磁の人』(河出書房新社)で第8回中村星湖文学賞を受賞。著書には『7人の主君を渡り歩いた男藤堂高虎という生き方』(KADOKAWA)、『昭和まで生きた「最後のお殿様」浅野長勲』(パンダ・パブリッシング)など多数ある。

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