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県民4人に1人が亡くなった沖縄戦を描いた映画『島守の塔』

歴史を楽しむ「映画の時間」第31回 


沖縄本土復帰50年を迎えた今年の夏に公開予定の映画『島守の塔』。沖縄戦の戦没者は約20万人、そのうち亡くなった沖縄県民は94,000人。米国上陸に向け軍は県民総出の徹底抗戦を指示し、男性学生も「鉄血勤皇隊」として防衛招集されました。県民の4人に1人が亡くなった沖縄戦を描いた同映画は、ロシアのウクライナ侵攻に世界中が苦悩している今、日本の歴史、そして戦争と平和について考えるためにも見ておきたい一本だ。


一般人94,000人が亡くなった沖縄戦で命を救おうと奮闘した知事と警察部長

c)2022映画「島守の塔」製作委員会

 『島守の塔』は第二次世界大戦時の最後の沖縄県知事・島田叡(しまだ・あきら)と当時の警察部長・荒井退造(あらい・たいぞう)を中心に、一般人だけで94,000人の死者を出した沖縄戦の実情を、五十嵐匠(いがらし・しょう)監督が描いたものである。

 

 物語は日本軍が南方戦線で大敗し始めた昭和18年に始まる。この頃に荒井は警察部長として沖縄に赴任。翌19年はマーシャル群島、サイパン島で日本軍が玉砕戦を展開し、沖縄にも戦火の影が忍び寄る。そこで一般人の沖縄からの疎開が決まり、まずは率先して警察官の家族が疎開船に乗ることになる。

 

 しかし、疎開船「対馬丸」は米軍の攻撃によって沈没し、荒井は部下たちの家族が命を失ったことに責任を感じる。

 

米軍上陸に向け県民総出の徹底抗戦のため、男子学生が防衛招集される

c)2022映画「島守の塔」製作委員会

 昭和201月、島田が県知事に赴任するが、3月には沖縄への艦砲射撃が始まり、米軍の上陸が近いと悟った軍部は、島田に県民総出の徹底抗戦を指示。そのために14歳から17歳の男子は「鉄血勤皇隊(てっけつきんのうたい)」として防衛招集された。

 

 軍から「鉄血勤皇隊」の名簿を提出するように言われた島田は、若者を死地に追いやる名簿を見て苦悩する。

 

 荒井は栃木県、島田は兵庫県神戸市の出身で、共に沖縄県人ではないが、自分たちの行いが民間人の命を奪うことになったという想いから、彼らは最後まで沖縄の人のために尽力していくのである。

 

戦況によって方針が変わる軍部のもとで奮闘する島田知事と新井警察部長

c)2022映画「島守の塔」製作委員会

 萩原聖人(はぎわら・まさと)と村上淳(むらかみ・じゅん)が、野球をしていたことでも心を通わせる島田と荒井を誠実に演じている。戦況によってどんどん方針を変えていく軍部に対し、あくまでも県民の命を守ろうとする二人の姿が印象的。

 

 特に島田に扮した萩原は、密造酒を飲んで与えられた作業をさぼろうとする県民に遭遇したとき、一緒に酒を飲んで彼らと踊り、住民たちの気持ちを和らげようとする、そのさばけた人柄が心地よい。島田は事あるごとに、「明日天気にしておくれ」という歌詞のなかに希望をこめて、「てるてる坊主」の歌を歌う。軍人たちが敗戦は必至とネガティブになっていくなか、県民を生かすことへの希望を失わない彼の姿勢が、胸を打つ作品になっている。

 

 彼らよその県から沖縄に来た人間の他に、地元民の代表として、吉岡里帆(よしおか・りほ)扮する比嘉凜(ひが・りん)も登場する。日本の軍国主義教育に染まって生きてきた彼女は、県知事付きの秘書のような仕事に就き、規律だけに縛られない島田の人間性に魅せられていく。

 

沖縄本土復帰50年の今、命を失った沖縄の過去をどう考えるか

c)2022映画「島守の塔」製作委員会

 

 沖縄戦は41日の米軍上陸から本格化し、623日まで続いたが、戦局が極まってどこへ行っても死の危険が待ち受けている状況になったある夜。洞窟内で島田に「自分はお国のために死ぬ」という凜と、「あなたは逃げて生きてくれ」という島田との別れの場面が切ない。

 

 映画の最後には現在の凜が登場。これを大女優・香川京子(かがわ・きょうこ)が演じているが、思えば香川はかつて、沖縄戦で玉砕したひめゆり部隊を描いた『ひめゆりの塔』(1953)にも出演していた。それだけに島田と荒井の終焉の地に建てられた慰霊碑と、そのすぐ横にある当時の県職員を祀る「島守の塔」を彼女が訪れる場面は、凜という役と香川京子本人の沖縄への想いが重なって、非常にエモーショナルな感動を呼ぶシーンになっている。心の底から振り絞るように香川が歌う「てるてる坊主」の歌に、涙する人も多いだろう。

 

 今年は沖縄の本土復帰50年に当たるが、日本の軍部によって人柱のように戦場の真っただなかに置かれ、老若男女を問わず命を失った沖縄の人たちの過去を、この映画によって思い返してみるのは意味のあることだと思う。ウクライナの情勢もそうだが、戦争は名もなき一般人からすべてを奪う。日本人がその過ちを繰り返さないためにも、これは多くの人に観てほしい1本だ。

 

 

【映画情報】

22日(金)よりシネスイッチ銀座、8月5日(金)より沖縄、兵庫、栃木にて上映開始。

その後、順次全国公開

 

『島守の塔』

c)2022映画「島守の塔」製作委員会

監督/五十嵐匠 

出演/萩原聖人、村上淳

吉岡里帆、池間夏海、榎木孝明、成田、水橋研二、香川京子

時間/131分 製作年/2022年 製作国/日本

 

公式サイト

https://shimamori.com/

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金澤 誠かなざわ まこと

1961年生まれ。映画ライター。『キネマ旬報』などに執筆。これまで取材した映画人は、黒澤明や高倉健など8000人を超える。主な著書に『誰かが行かねば、道はできない』(木村大作と共著)、『映画道楽』、『新・映画道楽~ちょい町エレジー』(鈴木敏夫と共著)などがある。現在『キネマ旬報』誌上で、録音技師・紅谷愃一の映画人生をたどる『神の耳を持つ男』を連載中。

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