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「御館の乱」で勝頼が犯した戦略ミスと領土再拡大

武田三代栄衰記⑭

御館の乱に深入りしたくない勝頼。一度は和睦を成立させるが…

謙信の死後、景勝と景虎の間で勃発した家督争いは、謙信の側近や一門衆を二分して対立。北条氏の要請で景虎支援のため越後に出陣した勝頼だったが、土壇場で中立に転じた。

 天正4年以降、勝頼は各国の主要寺社の復興に注力している。主要寺社の再建は、その国の国主であることの証であり、特に天正6年2月に始まる諏方大社上社・下社の造営は、父信玄の事業の継承でもある。諏方氏惣領であった過去をもつ勝頼にとって、特別な意味があったろう。

 

 その直後の天正6年3月、上杉謙信が急逝した。家督は、姉の子で養子に迎えていた景勝(かげかつ)が継承するが、越後はこれでまとまらなかった。

 

 話は武田信玄の駿河侵攻にさかのぼる。今川氏真(うじざね)支援を決めた北条氏康(うじやす)は、謙信に同盟を持ちかけた。子供のいなかった謙信は養子を要求し、最終的に氏康の子息三郎が越後に入った。謙信は三郎をかわいがり、自身の初名景虎を名乗らせた。さらに、景虎を後継者と定めたようだ。

 

 ところが氏康の死後、北条氏政は謙信との同盟を破棄した。景虎はその後も越後に留まったが、天正3年に後継者の地位は景勝に移った。

 

 謙信も、信玄同様、生前に家督を譲ってはいなかった。その上、謙信の死は、後継者変更からわずか3年後である。5月、景勝家督に納得しない勢力が、景虎を擁立し、前関東管領山内上杉憲政(うえすぎのりまさ)の屋敷御館(おたて)に入った。ここに、御館の乱が始まる。

 

 景虎の兄北条氏政は佐竹氏と対陣中で、身動きが取れなかった。そこで、妹婿となった勝頼に、援軍派遣を要請した。勝頼は快諾し、武田信豊を先陣として、越後へ進軍した。

 

 思わぬ勢力の介入に慌てた上杉景勝は、勝頼に和睦を求める使者を派遣した。条件は、信濃北端に残っている上杉領の割譲と、黄金の進上である。勝頼はこれを受け入れ、上杉領を接収しながら越後へ入った。

 

 ただし、勝頼の出陣理由は北条氏政から受けた景虎支援要請である。勝頼は景勝には黙って、実弟仁科盛信(にしなもりのぶ)を越後西浜(西端一帯)に進軍させ、根知(ねち)城を降伏に追い込んだ。

 

 越府に着陣した勝頼は、景勝・景虎の和睦調停を開始した。織田・徳川を敵として抱える勝頼としては、御館の乱に深入りしたくはない。8月、何とか和睦が成立するが、その直後に徳川勢が駿河に侵攻し、勝頼は急ぎ帰国した。この結果、和睦はすぐに破れてしまう。

 

新たな同盟関係を模索するが家康に対する苦戦は解消できず

 

 勝頼は、景勝との交渉は景虎および北条氏政にはひた隠しにしていた。ただ勝頼撤退は、北条勢が越後に援軍に入ったタイミングと一致していた。また上杉景勝が、勝頼の援軍がやってくると触れ回ったことで、氏政の信頼を失いつつあった。

 

 天正7年になると、武田・北条両氏は疑心暗鬼に陥り、駿河・伊豆国境の緊張が高まった。4月、上杉景虎が自害し、破局は決定的となる。

 

 勝頼は、東関東国衆の盟主となった常陸の佐竹義重と同盟し、北条氏政との開戦に備えた。一方氏政も徳川家康と手を結ぶ。9月、駿豆国境で、武田・北条両氏は衝突した。

 

 上野は佐竹氏との挟撃(きょうげき)で、武田氏優位に進んだ。逆に北条・徳川氏に挟撃された駿河は劣勢である。

 

 勝頼は、優位に戦える北条氏との戦争に注力するようになっていく。そこで佐竹義重を通じて、織田信長に和睦を求めた。元亀3年に捕えた信長の子織田信房(のぶふさ)を返還したが、信長は一顧(いっこ)だにしなかった。

 

 北条包囲網構築のため、勝頼は兼ねての約束通り、妹菊姫を上杉景勝に嫁がせて同盟を結んだ。なお御館の乱時、援軍を望んだ景勝は、勝頼に妻有(つまり)・赤沢両城を割譲し、西浜の根知城・不動山(ふどうやま)城も譲渡した。これにより、武田領国は日本海に達する。

 

 ただこれは、上杉氏に昔日(せきじつ)の力がないことを意味する。景勝は越後再統一に手一杯で、勝頼との連携は越中で織田勢を牽制するに留まった。

 

 上野(こうずけ)失陥の危機に焦る北条氏政は、天正8年3月、織田信長に服属を表明した。対する勝頼は信玄期並みの領国を構築していくが、家康に対する苦戦は解消できずにいた。

 

監修・文/丸島和洋

『歴史人』12月号「武田三代」より)

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