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「日中対立」の改善が難しいワケとは? 最大の問題は領有権や歴史認識ではない?


  

 日中関係の改善は、近年ますます困難な様相を呈している。領有権や歴史認識といった長年の懸案に加え、今日の世界情勢における根本的な構造変化が、両国関係の進展を阻む強固な壁となっている。その最大の要因が、「米中対立」という巨大な国際構造であることは言うまでもない。

 

■米中対立が日中関係の進展を阻む

 

 日本と中国の間には、尖閣諸島を巡る領有権問題、歴史認識を巡る摩擦など、両国間の政治的緊張を高める火種が常に存在している。しかし、これらの二国間問題以上に、現在の関係を難しくしているのが、米中間の戦略的競争という枠組みである。

 

 日本は、安全保障上、経済上、そして価値観においても、米国を最も重要なパートナーと位置づけている。このため、中国が国際社会で影響力を強め、特に軍事面での活動を活発化させる中で、日本が日米同盟を強化し、米国との連携を深めるのは、ごく自然な、そして不可欠な外交・安全保障上の選択である。ところが、この自然な選択こそが、日中関係の改善を困難にする最大のトリガーとなってしまうのである。

 

 日本が防衛力を強化し、米国との合同演習を増やし、共同声明で中国の現状変更の試みを牽制する、これらは日本にとって抑止力の強化であり、国益を守る行動である。しかし、中国側から見れば、これらは米国主導の対中包囲網への積極的な参加と映る。

  

 日本が中国に対して抑制的な姿勢を示し、表面的に摩擦を避けようと試みたとしても、米国との関係を強化するという行動そのものが、中国の日本に対する不満や猜疑心を強める結果となる。中国は、日本の行動を、単なる二国間の問題としてではなく、米国という世界最強の超大国の代理人としての行動、あるいは米国の戦略に乗せられた行動として捉える。

 

■戦略的ジレンマからの脱却は不可能

 

 この構造は、日中関係を戦略的ジレンマに陥らせている。日本が米国との関係を強化すれば、中国が警戒・反発し、日中関係が悪化する。一方、日本が日中関係改善のために中国へ配慮を示せば、米国との同盟関係に亀裂が入る恐れが生じ、日本の安全保障上のリスクが高まる。

 

 日本は、自国の安全保障の根幹である日米同盟を軽視することはできず、また、インド太平洋地域における米国のプレゼンスを無視することもできない。同時に、地理的にも経済的にも密接な隣国である中国との関係を完全に断ち切ることも非現実的である。

 

 このような三角形の国際関係において、日本がどこに立っても、必ずどこかの辺で摩擦が生じる。中国との関係を進展させようと足掻けば、米国との関係の信頼性が損なわれかねない。逆に、米国との結束を固めれば、それはそのまま中国の反発、すなわち日中関係の停滞・悪化に直結してしまうのである。

 

■構造的な対立は継続する

 

 領有権や歴史認識といった二国間固有の問題は、外交努力によって一時的に管理・棚上げすることは可能かもしれない。しかし、米中対立の構図という、より大きな、そして構造的な問題は、日本の外交努力だけではどうすることもできない。

 

 この米中対立の構図が続く限り、日本が自国の安全と繁栄を守るために日米同盟を基軸とするという当然の選択が、常に中国との関係の進展を妨げる重しとなり続けるのである。ゆえに、日中関係は、一時的な改善や小康状態を見せることはあっても、根本的に良好な関係へと進展し、安定することは、極めて難しい。今後も、大国の間で自国の針路を探る困難な関係の管理が、日本の外交課題の中核であり続けるのである。

イメージ/イラストAC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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