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米露首脳会談・アラスカで開催もウクライナ停戦に進展なし プーチン氏の思惑と今後の展望


 米国のドナルド・トランプ大統領とロシアのウラジーミル・プーチン大統領が15日(日本時間16日未明)、米アラスカ州アンカレジの米軍基地で約3時間の会談を行った。4年ぶりの対面首脳会談であり、ロシアのウクライナ侵略開始後では初となるこの機会は、国際社会の注目を集めた。しかし、焦点のウクライナ情勢を巡る停戦合意には至らず、両者の立場に隔たりが残ったままで終わった。

 

 会談は当初予定されていた11の形式から変更され、米側はマルコ・ルビオ国務長官とスティーブン・ウィトコフ中東担当特使、ロシア側はセルゲイ・ラブロフ外相とユーリー・ウシャコフ大統領補佐官が加わる33の協議となった。経済担当閣僚を交えた拡大会合は見送られ、議論は主にウクライナ問題に集中したとみられる。会談後、両首脳は共同記者会見に臨んだが、停戦への具体的な言及はなく、記者からの質問も受け付けなかった。

 

 プーチン氏は会談を「建設的な雰囲気の中、有益な交渉」と評価し、ウクライナの「非軍事化」と「中立化」を繰り返し主張した。これはロシアの従来の立場を崩さないもので、紛争の根本原因除去を強調する一方、貿易、宇宙、北極圏開発での米露連携を提案し、経済協力の可能性をアピールした。一方、トランプ氏は「非常に生産的な会談で、多くの点で合意した」と述べたものの、合意の詳細を明かさず、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領やNATO側に結果を伝える意向を示すにとどめた。会談前、トランプ氏が言及していた土地の交換案、ロシア占領地の部分返還を想定したものについても触れられなかった。

 

 会談後のFOXニュースインタビューでトランプ氏は、ロシア・ウクライナ首脳会談の調整が進む見通しを語り、自ら出席の意欲を示した。また、停戦合意の成否をゼレンスキー氏次第とし、「ロシアは大国だ」と圧力をかける発言をしたが、米側が見込む合意内容は依然不明だ。両首脳は再会談への意欲を表明し、プーチン氏が「次はモスクワで」と提案したのに対し、トランプ氏は「可能性はある」と応じた。

 

 この会談の背景には、プーチン氏の戦略的な思惑が透けて見える。ロシアはウクライナ侵略以来、米国主導の経済制裁と国際的な孤立に苦しんでいる。プーチン氏はトランプ氏との積極的な対話をテコに、制裁の緩和や回避を図ろうとしている。会談で経済協力を強調したのは、その一環だ。貿易や北極開発での連携を餌に、米露関係の改善を模索し、ウクライナ問題の優先順位を意図的に下げようとする狙いがうかがえる。これにより、戦闘継続の「習慣」を維持しつつ、外交的な余地を広げ、国際社会での孤立を防ぐ戦略だ。

 

 専門家は、プーチン氏のこうしたアプローチを「時間稼ぎ」と分析する。ロシア軍はウクライナ東部で優勢を保っているが、長期戦の疲弊も無視できない。トランプ氏の再選により米国の対露姿勢が軟化する可能性を見越し、経済面での交渉を増やし、ウクライナ停戦を棚上げする意図がある。一方、トランプ氏は「アメリカ・ファースト」の観点から、欧州依存の脱却を狙うが、NATO盟友の反発を招くリスクも伴う。

 

 今後の展開として、プーチン氏は経済文脈での追加交渉を提案し、米露関係の正常化を推進するだろう。例えば、北極圏資源開発や宇宙技術の共同プロジェクトを軸に、制裁緩和を求める可能性が高い。これにより、ウクライナ問題を外交の周辺に追いやる戦略が加速する。一方、ゼレンスキー氏は会談結果を「ロシアのプロパガンダ」と批判しており、停戦交渉の難航は必至だ。国際社会は、米露の接近がウクライナの主権を損なう恐れを警戒している。

 

 この会談は、米露関係の再構築を示唆する一方、ウクライナ情勢の解決には程遠い。停戦への道筋が見えない中、両大国間の駆け引きが新たな緊張を生む可能性もある。

写真AC

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プロバンスぷろばんす

これまで世界50カ国ほどを訪問、政治や経済について分析記事を執筆する。特に米国や欧州の政治経済に詳しく、現地情報なども交えて執筆、講演などを行う。

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