中国に軍配:トランプの「敗北」と台湾ディールへの布石
10月30日に韓国・釜山で行われた米中首脳会談は、米中貿易戦争における「一時休戦」という体裁を取りながら、その実態はトランプ大統領が逆に中国に譲歩を引き出されるという、戦略的な敗北の色彩を帯びた結果となった。強硬なディールメーカーを自任するトランプ氏の交渉術が、習近平国家主席の前に屈した形であり、今後、中国はこのペースを維持し、「台湾問題に関与しない」という最大の政治的譲歩を引き出そうと動く可能性があろう。
■実質的な譲歩は米国側:レアアースの「限定的な勝利」
今回の会談で最も注目すべき点は、両国が交換したディールの内容である。米国は、中国からの輸入品に対する追加関税の一部(フェンタニル流入を理由とする20%のうち10%分)を実質的に撤廃した。これに対し、中国が応じたのは、戦略物資であるレアアースの輸出規制の1年間暫定停止という限定的な譲歩に過ぎない。
トランプ大統領が狙ったのは、中国が突きつけたレアアース輸出規制の完全撤廃であったと見られる。しかし、実際に引き出せたのは1年間の猶予という期限付きの合意であり、1年後には再び「戦略の切り札」として規制が導入される可能性を温存させたままなのである。
この交換は、戦略的な観点から見ると、中国の優位性を鮮明に示している。中国は、いつでも発動できるレアアースというカードをちらつかせるだけで、米国から課税済み関税の一部引き下げという、経済的に実質的な譲歩を引き出すことに成功したのだ。強気の関税政策を武器にしてきたトランプ政権が、交渉の土俵で中国に主導権を握られ、譲歩を強いられたという事実は、今後の米中関係における交渉の機運を大きく左右するであろう。
■中国の次の目標:最大のディール「台湾不関与」
今回の会談で中国は、限定的な譲歩と戦略的カードの温存という手法で、米国から実質的な譲歩を引き出すことに成功し、トランプ政権の強硬な交渉戦術が必ずしも万能ではないことを証明した。今後、中国はこの成功体験を基に、より構造的かつ政治的な最大のディール、すなわち「台湾問題に関与しない」という譲歩をトランプ大統領から引き出すための圧力を強めていくと予測される。
レアアースの規制猶予期間はわずか1年間である。この1年というタイムリミットは、中国にとって、貿易問題だけでなく、台湾を始めとする政治的な核心的利益に関しても、米国に譲歩を迫るための強力な「時限爆弾」となり得る。
■一時休戦の代償
10月30日の首脳会談は、一時的な市場の安心感と引き換えに、トランプ大統領が中国に戦略的な主導権を明け渡したに等しい結果となった。中国は、この勢いを維持し、1年後のレアアース規制再導入という圧力を背景に、トランプ大統領から台湾問題への政治的な不関与という、安全保障上の最大の譲歩を引き出すという、次なる極めて重大なフェーズへと進む準備を整えたと評価できる。

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