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「剣道」と「フェンシング」どちらが強い!? 実際に戦った結果、勝ったのは果たして…

目からウロコの剣豪・剣術伝説


 

■剣術とフェンシングを実際に戦わせてみた

 

 異種格闘技の優劣をめぐる議論は盛り上がること間違いなしだが、「剣道とフェンシング、どちらが強いか」もその好例であり、また永遠のテーマともいえよう。

 

 さて、フジテレビで平成14年(200210月~平成18年(20069月、雑学バラエティ番組『トリビアの泉』が放映され、人気を博した。

 

 このトリビアの泉で「剣道とフェンシング、どちらが強いか」という素朴な疑問を検証することになり、番組制作会社から筆者に相談があった(その経緯については省略)。

 

 筆者は製作会社のスタッフに会い、以下の3点を提案した。

 

① フェンシングはエペ、フルーレ、サーベルの3種があるが、剣道に近いサーベルにすること。(エペ、フルーレは突きだけだが、サーベルは突きのほか斬るもある)

 

② 選手の安全対策のため、剣道選手の面は透明な強化プラスチックなどで補強する。いっぽう、フェンシング選手の頭部などはクッション等で保護する。

 

③ 少なくとも10組の選手が、抽選などで組み合わせを決めて試合をおこない、全体の勝率で勝敗を決める。たとえば82で剣道側が勝てば剣道の勝利、73でフェンシング側が勝てばフェンシングの勝利とする。

 

 12はすんなり了解できたのだが、3が難航した。

スタッフが番組名と趣旨を述べて、全日本剣道連盟と日本フェンシング協会に、

10人の選手を推薦してほしい」

 と依頼した。

 ところが、双方から、

「そんな試合は意味がない」

 という理由で、にべもなく断わられた。

 うがった見方をすれば、それぞれ自分たちが負けた場合のリスクを考えたのかもしれないが。

 

 となると、個別に出場を依頼するしかない。スタッフが奔走した結果、剣道からK氏、フェンシングのサーベルからF氏が出場を了承した。

 ともに全国大会で上位の成績を修めた実力者だが、匿名が条件だった(当時)。さいわい、剣道もフェンシングも顔は防具で見えない。

 

 かくして、剣道対フェンシングの試合が平成15年(20031112日、さいたま市内の体育館で行われた。テレビの放映は1210日。観た人もいるかもしれない。

 

 公開の場で剣道とフェンシングの試合が行われたのは、おそらくこのときが最初であろう。

 

 試合に先立ち、番組関係者が質問した。

「剣道とフェンシングの、どちらが勝つと思いますか」

 筆者は言下に答えた。

「勝負は一瞬で決まり、ほとんど相打ち。しかし、写真判定でフェンシングの勝ちになるでしょう」

 

 さて、当日、いよいよ試合開始。

 K氏は竹刀、F氏は競技用サーベルを構える。

 K 氏が大きく踏み込み、竹刀でF氏の面を打った。F氏も大きく踏み込み、サーベルでK氏の右胴を打った。

 剣道側とフェンシング側の審判の判定は同時だった。つまり、人間の目で見る限り、相打ちである。

 

 そこで、録画映像を再生して確認することになった。

 

 その結果、サーベルがK氏の胴に触れたのが、竹刀がF氏の頭に触れたのよりほんの一瞬早かったのが確認され、F氏の勝ちと決まった。

 かくして、筆者の予想通り、勝負は一瞬でつき、ビデオ判定でフェンシングの勝ちとなったのである。なお、写真判定はすでに古く、実際はビデオ判定だった。

 

 ただし、剣道の名誉のために、これだけは言っておかねばなるまい。

 竹刀は真剣に比べて軽い。競技用サーベルにいたってはふにゃふにゃで、しかも実際のサーベルよりはるかに軽い。

 

 つまり、今回のようなルールで対戦したら、フェンシングが勝ったということなのだ。

 

 本当に決着をつけるなら、真剣同士で戦うしかないのだが、そんなことはできない。まさに暴論であろう。

 では、竹刀と競技用サーベルで勝負するとなると、少なくとも10組の試合をして、勝率で決めるしかない。だが、それもできなかった。

 この結果、剣道のK氏とフェンシングのF氏が試合をして、フェンシングが勝ったのである。

 

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永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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