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娘の婿に手をつけてしまった魔性の女・藤原薬子の末路 妖艶さで天皇を虜にして悪行三昧

日本史あやしい話


■兄・仲成と組んで専横の限り

 

 しかし、兄・仲成とともに権力を握り始めると、薬子の平城天皇に対する対応にも変化が見られるようになった。我が子ほど年の離れた上皇をまるで我が子のように接し、やることなすことに干渉し始めたのである。ガミガミとこうるさい母親に変貌してしまったのだから、上皇にしてみれば鬱陶しく思い始めたに違いない。私生活も政も仲成と薬子に取り仕切られて、出る幕がなくなってしまった。当然のことながら、次第にやる気も失せて、嫌気が差してしまったのだ。挙句、弟の神野親王(嵯峨天皇)に譲位して、政を放り出してしまった。そして、自身は上皇となって、平城京に移り住んでしまうことに。

 

 それでもこの状況は、権勢に固執する薬子にとっては都合の良いものではなかった。自らの言いなりとなる上皇が隠居してしまっては、権力をほしいままにできなくなるからである。そこで上皇を焚き付けて復権を図り、平城京への遷都を目論むのであった。こうして平安京の嵯峨天皇と、平城京の平城上皇の二朝が対立するという構造が出来上がってしまったのである。

 

 ともあれ、この状況に動揺した嵯峨天皇側が動いた。まずは、上皇が目論む遷都を拒否。さらに各地の関を固めた上で、仲成を捕らえて監禁。薬子の官位を剥奪してしまったのである。

 

 一方の上皇側は、薬子とともに東国に赴いて挙兵しようと目論んだものの、嵯峨天皇がこれを見越して兵を派遣して阻止。坂上田村麻呂に命じて、仲成を射殺してしまった。上皇は出家して命を永らえたものの、なす術も無くなった薬子は、毒をあおいで自害したのである。

 

 権力者である天皇を自らの色香で虜にした上、権力まで手にした薬子。反面、女に惑わされて骨抜きにされた挙句、政を放棄してしまった平城天皇。薬子がとびっきりの美女だったかどうかは明確ではないものの、傾国の美女ともいうべき悪女だったことだけは間違いなさそうである。

イメージ/イラストAC

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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