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朝ドラ『あんぱん』嘘をついて子を置き去りに… やなせたかし氏の母の嘘と3回目の結婚相手とは?

朝ドラ『あんぱん』外伝no.3


NHK朝の連続テレビ小説『あんぱん』がスタート。第1週は「人間なんてさみしいね」が放送中だ。3話では、柳井嵩(演:木村優来)の母・登美子(演:松嶋菜々子)が再婚することになり、嵩を残して家を出た。弟・千尋(演:平山正剛)とともに去りゆく母を見送った嵩は、その複雑な胸中をのぶ(演:永瀬ゆずな)に打ち明ける。今回はやなせたかし氏の実母・登喜子さんのエピソードをご紹介する。


 

※本稿ではデビュー後のお名前をペンネームの「やなせたかし」で表記、幼少期に関する記述を本名で表記しています。予めご了承ください。

 

■派手好きで奔放だった母の三度目の結婚が人生を変えた

 

 やなせたかし氏(本名:柳瀬 嵩)の母・登喜子さんは、父・清さんと同じ高知県香北町在所村の出身。6人きょうだいの次女で、高知県立第一高等女学校に進学した才女だった。在学中に一度結婚をしているが、出戻っており、清さんとは二度目の結婚になる。清さんも由緒ある旧家の生まれということから、地元のエリート家系同士の縁組となった。

 

 登喜子さんは大正8年(1919)に嵩さんを、その2年後に弟・千尋さんを出産。東京で暮らしていたが、清さんが大正12年(1923)に東京朝日新聞の特派員となって上海に渡ったのを機に、2人の子を連れて故郷の高知県に戻ったという。

 

 2人の子を抱え、清さんの帰りを待っていた登喜子さんだったが、わずか1年後の大正13年(1924)に清さんが赴任先で病没。清さんの死をうけて、まずは千尋さんが伯父・柳瀬寛さんの養子となった。そして登喜子さんは嵩さんを連れて、自分の母・鐵さんと共に高知市内の医師宅の離れに居候する形で新生活をスタートさせたのだった。

 

 登喜子さんは良家の生まれということもあって気位が高く、華やかで奔放な女性だったという。綺麗に化粧をし、香水をまとい、華やかに着飾って外出するので、田舎では悪目立ちして評判が悪かったようだ。やなせたかし氏は自身の著書で「そんな母の悪口を聞かされることもあった」と回顧している。気性は激しいが社交的でもあり、派手な装いを好む自由な女性だったようだ。

 

 一方で子どもへの愛情もまた深かった。清さんの死後は数々の習い事で身に着けたスキルを駆使して、生け花や茶の湯の教室を開いてどうにか生計を立てようとしていたという。あまり家にいなかったのにはこうした事情もあったのだろう。教育熱心な一面もあり、幼い嵩さんの勉強や生活態度に対してかなり厳しく指導していたようで、そのスパルタぶりを後にやなせたかし氏本人が振り返っている。

 

 そんな登喜子さんに、やがて三度目の結婚の話が持ち上がる。門田隆将『慟哭の海峡』(角川書店)によると、お相手は東京に暮らす官僚で、しかも既に子どももいた。官僚ということで裕福だったことは想像に難くない。この時、嵩さんは小学校2年生、まだ7歳だった。

 

 やなせたかし氏は著書『人生なんて夢だけど』において、登喜子さんが寛さんとしばらく話し合ったあとに、「嵩はしばらくここで暮らすのよ。病気があるから、伯父さんに治してもらいなさい」と言ったと綴っている。また、ドラマで描かれたように、真昼の日差しが降り注ぐなか、真っ白なパラソルを差し、キリッとした着物姿で振り返ることなく去ってゆく母の背中を千尋さんとともに見送ったことをよく覚えていたそうだ。

 

 嵩さんは寛さんに引き取られ、後免野田組合尋常小学校に転校した。母がもう迎えに来てはくれないことをどこかでわかりつつ、信じたい気持ちを捨てきれないまま、既に弟が養子に入っている伯父の家に家族として加わるという複雑な生活をスタートさせたのである。

 

<参考>

■高知市広報「あかるいまち」201610月号

■門田隆将『慟哭の海峡』(角川書店)

■やなせたかし『人生なんて夢だけど』(フレーベル館)

イメージ/イラストAC

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