×
日本史
世界史
連載
ニュース
エンタメ
誌面連動企画
歴史人Kids
動画

ぽっちゃり系の若い女性を「ぼっとり者(ぼっとりもの)」と形容した【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語79


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■ぼっとり者(ぼっとりもの)

 

 若い女を形容する言葉。

 ふくよかで、愛嬌のある娘。初々しい、愛嬌のある女。ぽっちゃり系の色気である。

「薄雪娘」と書いて「ぼっとりもの」と読ませることも多い。

 図は、画中に「薄雪娘」とある。また、「新開相(あらばちのそう)」とあるので、処女である。

 

【図】『艶本婦多津枕』(渓斎英泉、文政六年頃/国際日本文化研究センター蔵)

(用例)

①『閨暦大雑書玉門大成』(不明)

 

 この娘、お甲も今年十八のぼっとり者、しかも少しむっちりと肥えて、鼻筋通り、目元のかわゆらしさ、誰も男の好く風俗なりしが、

 

 体つきは豊満で、顔は愛嬌があった。

 

 

②春本『四季の寿き』(腎沢山人)

 

 下女りん、明くる十六の薄色つきの、ぼっとり者。

 

 りんという名の下女は、年が明けると十六歳になる。やや色気づいたころ。

 

 

③春本『天野浮橋』(柳川重信、天保元年)

 

 離れ離れの水茶屋に、三五ばかりの薄雪娘(ぼっとり)、人にすぐれし愛嬌を、はやり島田に薄化粧、結城紬(ゆうきつむぎ)に博多帯、広桟前垂(ひろざんまえだれ)、真田紐(さなだひも)、しどけようなく腰打掛け、

 

「三五」は十五歳のこと。

 茶屋の床几に、ぽっちゃりした愛嬌のある娘が腰をかけている姿である。

 

 

④春本『春情指人形』(渓斎英泉、天保九年頃)

 

 今年二八の娘盛り、十人並みにすぐれし器量、名をばお品と呼びなしたり。生まれついてのぼっとりもの。

 

「二八」は、十六歳のことである。第28回参照。

 

⑤春本『露廼飛怒間』(歌川国麿、幕末期)

 

 雨に降られて、男が茶屋にやってきた。茶屋女が迎える。

 

女「まあ、こちらへお上がんなさいましな。もう今に雨がやみますよ。よいお茶を入れますから」

男「はい、ありがとう。おまえの濃いお茶はさぞうまかろうねえ」

女「おや、きついお世辞でございますよ」

男「なに、世辞なものか。本当にさ。このぼっとりもので、人を迷わせるだろう」

 

 ぽっちゃりとした体形の色気で男を迷わせる、という意味であろう。

 

 

[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」

永井義男著 「江戸の遊郭」

現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。

Amazon Apple Books 楽天Kobo

KEYWORDS:

過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

最新号案内

『歴史人』2025年11月号

名字と家紋の日本史

本日発売の11月号では、名字と家紋の日本史を特集。私たちの日常生活や冠婚葬祭に欠かせない名字と家紋には、どんな由来があるのか? 古墳時代にまで遡り、今日までの歴史をひもとく。戦国武将の家紋シール付録も楽しめる、必読の一冊だ。