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遊女を揚げて遊ぶ「女郎買い」【江戸の性語辞典】

江戸時代の性語76


ここでは江戸で使われていた「性語」を紹介していく。江戸時代と現代の違いを楽しめる発見がある。


 

■女郎買い(じょろうかい)

 

    男の道楽を俗に「呑む、打つ、買う」と言った。

 

 呑むは酒、打つは博打(ばくち)、買うは女郎買いである。現代で言えば、アルコール、ギャンブル、フーゾクになろうか。

 

 女郎買いは、遊女(女郎)と遊ぶこと。吉原の遊女も、岡場所の遊女も、宿場の遊女(宿場女郎)も、すべて女郎買いの対象である。

 

 図は、吉原の花魁(おいらん)の寝間の様子。布団は三枚重ねである。最高級の女郎買いといえよう。

【図】最高級の女郎買い 『古能手佳史話』(渓斎英泉、天保七年)、国際日本文化研究センター蔵

 

(用例)

①春本『艶道智恵海』(不明)

 

 おおかた女郎買いの面白さは、ほかの客に親しむを堰(せ)き、もし移り気やとさぐり見つ、どうかこうかのその中に、嬉しさもあり腹も立ちて、その浮き沈みが張り合いにて、それが楽しみなものぞ。

 

 「堰く」は、邪魔すること。

 女をめぐって、ほかの客と張り合ったり、駆け引きをしたりするのが女郎買いの妙味だ、と。

 

 

②春本『艶本婦多柱』(喜多川歌麿、享和二年)

 

 年増女が少年に言う。

 

 「もう、おめえの歳では、よその子供は女郎買いに行くのに、野暮な」

 

 少年は女郎買いの経験もなく、童貞だった。

 

③戯作『雑談紙屑籠』(十返舎一九著、文政三年)

 

 ものすごくけちな男がいたが、女郎買いには金を使った。

 

 されどもその心にて、よくも女郎は買うことく思えど、それは色の道、何ほど吝(しわ)き者にても、この道は思案の外なり。

 

④戯作『仮名文章娘節用』(曲山人著、天保五年)

 

 武士が息子に、友達付き合いについて言う。

 

 「仲間の付き合い、そのほかも、仕儀によってはのっぴきならねど、物事よろずに内端(うちば)にして、花に誘われ月に浮かれて、女郎買いなども三度に一度は、はずされなけりゃ、行くがよいわさ」

 

 「内端」は、ひかえめの意味。

 友達に女郎買いに誘われたら、三度に一度くらいは付き合うように勧めている。あまり固いのもよくない、ということであろう。

 

 

⑤戯作『娘消息』(曲山人、天保七年)

 

 大工の徳兵衛が、御用聞きの丁稚(でっち)に言う。

 

 徳「色をするのがおかしいものか。てめえのところの番頭さんも好きだろう」

 丁「ふう、おらんとこの番頭さんも毎晩、女郎買いに行くぜ」

 

 「色」は、色事、セックスの意味。第1回参照。

 番頭は夜な夜な、岡場所にでも出かけているのだろうか。

 

 

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過去記事

永井 義男ながい よしお

1997年『算学奇人伝』で開高健賞受賞。時代小説のほか、江戸文化に関する評論も数多い。著書に『江戸の糞尿学』(作品社)、『図説吉原事典』『江戸の性語辞典』『剣術修行の廻国旅日記 』(以上、朝日新聞出版)など多数。

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