キスは江戸時代のほうが濃厚で生々しかった「口吸い(くちすい)」【江戸の性語辞典】
江戸時代の性語57
我々が普段使っている言葉は時代とともに変化している。性に関する言葉も今と昔では違う。ここでは江戸時代に使われてた性語を紹介していく。
■口吸い
キスのこと。ただし、西洋社会のような儀礼、あるいは敬意を示すキスではなく、あくまで性技である。
また、現代では、キスはいわゆる前戯として用いられることが一般的だが、春本・春画の口吸いは濃厚な性技であり、性交の途中に行われることも多い。

【図】口吸い。(『花結色陰吉』歌川国芳、天保八年、国際日本文化研究センター蔵)
(用例)
①春本『百色初』(宮川春水、明和中期)
商家の手代と、主人の子供の乳母。いわば、奉公人同士の密通である。
男「久しく首尾せぬ。どうぞ、したいものだ。まず、口を吸おう」
女「おお、いとし。舌の根の抜けるほど、口を吸うてくれな」
「首尾」は、セックスのこと。したくても、なかなかできない状況だった。
②春本『葉名志那三話』(勝川春章、安永五年頃)
女の言葉を、男が嘘だろうとからかうと、
「いいえ、嘘ではないよ」
と、口に袖をあてると、
「どれ、嘘か嘘でないか、見てから」
と、袖を取って口を吸えば、こころよくねぶらせるに、
男の口吸いに、女は応じたのである。
③春本『腎強喜』(勝川春章、寛政元年)
十七、八歳の娘を、男が茶屋に引き込み、
奥の縁側に押しふせ、まず口を吸いて、玉門(ぼぼ)へ手をやれば、いっこうの新(あら)と見ゆれど、歳だけに淫水とろろのごとく、
「新」は、処女のこと。
④春本『喜能会之故真通』(葛飾北斎、文化十一年)
女は乱れているのに対し、男は冷静。
(女は)足でからみつき、手で締め付け、鼻息荒く持ち上げるを、静かに腰を使いながら、口と口、チュウ、チュウ、スパ、スパ、舌の抜けるほど口を吸う。
舌を吸い込んでいるようだ。まさに、口吸いである。
⑤春本『仮枕浮名の仇波』(歌川国政、安政元年)
女は積極的だった。
(女は)湯文字をはずして,ひったり抱き着き、口をヒチャ、ヒチャ吸いながら、あおむけになり、股を広げ、玉門(ぼぼ)を玉茎(まら)にこすりつければ、
キスというより、なめ回しているかのようである。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」
現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。