血塗られた天皇史を「かぐや姫」の物語が伝えている!? 崇神天皇の残酷な所業とは
日本史あやしい話10
■かぐや姫は神功皇后だった?
そしてもう一つかぐや姫との関連が指摘されるのが、第14代・仲哀天皇の后とされる神功皇后の存在だ。父は第9代開化天皇の玄孫とされる息長宿禰王であるが、曽祖父の山代之大筒木真若王の名前にも「筒木」が潜んでいることに注目したい。しかもその兄弟が丹波道主命で、『古事記』に記された迦具夜比売命の叔父の名前と同じ。偶然の一致としては、あまりにもできすぎている。
母・葛城高顙姫(かずらきのたかぬかひめ)は新羅からの渡来人・天之日矛(あめのひぼこ)の子孫とされるが、その系譜に名を連ねる田道間守(たじまもり)といえば、垂仁天皇に命じられて、「非時の香果(橘)」を求めて不老不死の理想郷とされる常世国に派遣された人物。かぐや姫が月へと旅立つ前に帝に残した、不死の薬との関連も指摘されるところである。
これらの共通点から鑑みれば、「かぐや姫」が、「迦具夜比売命」や「神功皇后」をモデルにした人物、あるいはその当人とも考えられるのである。神功皇后といえば、新羅へ侵攻した(あるいはしようとした)人物として『日本書紀』に記されているが、かぐや姫が神功皇后だったとすれば、月というのは新羅のことだったのではないかとも思えてくる。
神功皇后の母方の先祖が新羅出自の天之日矛であったというのが正しければ、神功皇后にとって新羅とは、かぐや姫にとっての月と同様、原郷というべきだろう。前述の中国江南がどのように関わってくるのかはわからないが、遠い遠い記憶の中に、これらの地から渡来してきたこと(もしかしたら縄文時代、あるいはそれ以前の記憶か)が微かとはいえ記憶され、物語として結実したということも考えられるのだ。
■竹取物語は真実を語っていた?!
さらに興味深いのが、古代史にも造詣の深い小説家・中津攸子氏の指摘である。同氏の著書『かぐや姫と古代史の謎』によれば、迦具夜比売命の祖父の兄弟が崇神天皇で、葛城王朝を滅ぼして新王朝を打ち立てたことで、迦具夜比売命が苦境に立たされたという。
同氏が「崇神天皇は開化天皇の御子ではなく、旧王朝を滅ぼして系譜を無理やり繋げた」と見なしていることを前提として話を進めていこう。開化天皇が崇神天皇によって滅ぼされた時、迦具夜比売命の父・大筒木垂根王が戦死あるいは刑死したという。
嬰児であった迦具夜比売命は助命され、叔父である讃岐垂根王に引き取られて育てられたとか。迦具夜比売命が成長した時、新王朝の天皇に嫁がせようとしたが、これは実の父を殺された彼女としては、納得できるものではなかった。
伝説のかぐや姫が貴公子ばかりか帝の求婚さえ断り続けたという理由が、これでスッキリ理解できるのだ。物語の中では、かぐや姫が罪を冒したということがさりげなく示されているが、その罪とは、本来なら殺される運命にあった彼女が助命されたことと考えることもできそう。
彼女が月からやってきた使者に、まるで連れ去られるかのように消えていったことが何を意味しているのかも謎。そこに死の匂いを嗅ぎ取ってしまうというのは、考えすぎだろうか。ともあれ、かぐや姫の物語は単なる作り話などではなく、史実を記した歴史の証言であった、その可能性も高いのである。
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