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北の地に生まれた「続縄文時代」とは?

「歴史人」こぼれ話・第37回


縄文時代の終焉を経て本州が新たな時代へと突き進むなか、北の大地では独自の文化・生活が育まれ、「続縄文時代(ぞくじょうもんじだい)」を迎えた。そのカギを握るのが、紀元前10世紀頃に北九州へ伝わったとされる水田稲作。それが東北にまで伝わったのは、紀元前4世紀頃のことであった。しかしその後も、津軽海峡を越えて北海道にたどり着くことはなかった。気候の問題もさることながら、水田稲作を必要としなかったからである。それはどういう理由によるものだったのだろうか? 


水田稲作が北海道に広まらなかったわけとは?

水田稲作とともに、本州では新たな生活様式と文化が育まれたが、目下それを必要としなかった北海道では、また異なる豊かな文化が花開いた。

 「続縄文時代って、昔学校で習った気がするけれど、何だったっけ?」と、そんな声が聞こえてきそうである。確かに馴染みの薄い「続縄文時代」、今回は、それにあえて挑戦。もう一度、思い起こしていただき、水田稲作の恩恵など見向きもしなかった理由、そして後世のヤマト王権が抱いたとある思惑に、思いを馳せていただきたいと思うのである。

 

 舞台は、主として北海道。本州以南で繰り広げられてきた縄文時代から弥生時代への変革についてはご存知の通り。水田稲作が広まることで社会が大きく移り変わり、「食糧生産を基礎とする生活が開始された時代」を迎えることができたのである。同じ頃、北海道はそれとは一風異なる道を歩んでいたことを忘れてはならないのだ。

 

 時代を古代にまで遡ってみよう。中国・江南(こうなん)を発祥地とする水田稲作、その稲を手にした人々が、長い年月を経て朝鮮半島にまでたどり着いたものの、気候変動の影響を受けて南下。北九州へとたどり着いたのが、紀元前10世紀頃のことであった。水田稲作が灌漑(かんがい)施設の建設など、とかく手のかかる農法だったがゆえに、多数派であった土着の縄文人たちの協力を仰がなければ成り立つものではなかった。縄文人との共存の道を歩まざるを得なかったのである。

 

 食料調達の安定化によって人口も増加し、紀元前4世紀頃には、東北にまで水田稲作が広まっている。なかなか狩猟採集生活から抜け出そうとしなかった関東への流入だけは紀元前2世紀頃と少々遅れたものの、この頃までには青森を北限として、日本列島各地に広く水田稲作が広まっていたのである。

 

 しかし、この水田稲作文化は、実のところ明治時代に至るまで、津軽海峡を越えることはなかった。北海道が寒すぎて稲が育ちにくかったということもあったが、原因はそれだけではなかった。当時の北海道はサケ漁が盛んで、あえて手間のかかる水田稲作を行う必要がなかったからである。それゆえ、北海道を除く列島各地が段階的に弥生時代へと移り変わっていったのに対して、北海道だけは縄文時代同様、狩猟採集を中心とする暮らしを、その後も連綿と継続し続けた。

 

 ただし、かつての縄文時代とは違って、鉄製の金属器などを交易によって手に入れることができたため、鉄製の釣り針が開発されるなど、以前よりも狩猟採集技術が向上。より安定的に食料が確保できるようになったようである。

 

 サケばかりか、クジラやイルカ、アザラシといった大型海獣の漁獲も可能となり、クマやイノシシの捕獲数も増大。特にクマの毛皮は、重要な交易品としてもてはやされるようになっていった。『日本書紀』に記されたように、北海道のヒグマの毛皮が、当時の王権の象徴として重用されたようである。その対価として本州各地から求めたのが、碧玉製の管玉や南島産の貝製品などであった。これらの多くが、首長の権威を象徴する副葬品として埋納されていたところから、かつての縄文時代とは異なり、富と権力を独占する首長層が出現していた階層社会だったことも判明している。

 

 こうした従来の縄文時代とは多少異なる新時代を迎えたことで、縄文時代と区別して、続縄文時代と呼ばれるようになったのである。狩猟採集を主としながらも、交易を通じた新たな生き方を選択したというところが特徴的であった。その後寒冷化などによって、一時的に津軽海峡を渡って南下せざるを得なかったこともあったが、概ね平穏な時代をその後も長きにわたって過ごしていたのである。

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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