現代に転生した天下人・ヒデヨシくんが「近年頻発する大規模災害」を語ったら?
三大天下人が“今”を斬る【第三回】
ノブナガくん、ヒデヨシくん、イエヤスくん。かつて戦国乱世を制覇し、天下人となった3人の戦国武将が“現代に蘇り、時勢について語ったら”……。はたしてどんなことを語るのだろうか? 今回はヒデヨシくんに「近年頻発する大規模災害」について語ってもらった。
■何もしなくても水害が起きやすい場所は戦国時代からいっしょ
ヒデヨシくん いやー、どえらゃーことになってしまっただがや。
お歴 どうされました、ヒデヨシ様。

お歴
ヒデヨシくん 最近、台風で日本全国が、水浸しだがや。特に家康の駿河(現在の静岡県)のところが酷いようだがや。
お歴 近年、多いですよね。
ヒデヨシくん 台風が多いのは、温暖化のせいか?
お歴 そういう説もありますね。台風が巨大化するものもやはり、温暖化が関係しているそうですよ。
ヒデヨシくん だとしたら、わしも関係しているでよ。
お歴 えっ、ヒデヨシ様が?
ヒデヨシくん 伏見城、大坂城、聚楽第など、わしは大きな建物をたくさん建てたでよ。それに使用する木は、木曽から切り出して使った。森林伐採は地球温暖化に繋がるというし、それに、伐採した後に木を新たに植えないと、大雨が降った時に、斜面の土が流れて行ってしまう。つまり、土砂崩れになってしまうでよ。わしは、きちんと植えたでよ。その後、家康がわしのマネをして木曽(現在の長野県)から木を伐り出しておったからのう。あいつが木を切ったままにしておくから。

ヒデヨシくん
お歴 今回でもっとも被害が大きかったのは、木曽ではなく静岡でしたよ。
ヒデヨシくん そうか。あいつの領地だったところだったから間違えたわい。被災した皆様にはこの場をお借りしてお見舞い申し上げるぞ。
お歴 まだまだ復旧のめどがつかないようですね。わずかでも床上浸水して室内が水に浸かると、電気の差し込み口から水が入って、配線やり直しになるそうです。
ヒデヨシくん 今は何をするのにも電気がないとできないそうじゃな。
お歴 そうですね。オール電化といって、すべて電気で賄っている家もありますから。
ヒデヨシくん わしがやった備中高松城(岡山市)の水攻めも、実は少し床上浸水する程度だったのじゃ。

絵本太閤記に描かれた備中高松城水攻め。(国立国会図書館蔵)
お歴 えっ、そうなんですか。
ヒデヨシくん 当時は特別な建物でない限り、普通は平屋だがや。現在残っている天守を見てもわかるように、トイレや流し場、井戸は地下もしくは1階に設置しておる。地下や1階に水が入れば、トイレは使えない、水は飲めない、つまり生活できなくなるのじゃ。
お歴 なるほど。
ヒデヨシくん いくらわしが有能でも平らなところにわずか12日で城が全部沈むような仕掛けを造るのは無理だがや。もともと、備中高松城は、わずかに周囲より窪んでおる中にわずかに高くなっているところに建てておる。だから、思った以上の効果があった。実は昭和60年(1985)に大雨の時にあのあたり一帯は冠水しておる。つまり、わしの水攻めを再現することになってしまった。インターネットで検索すると写真が見られるでよ。しかも、わしの水攻めの時には足守川から水を流し込んで洪水にしたが、昭和の時には、足守川から水は流れ込んではこなかったと聞いておる。つまり、ここは、何もしなくても水害が起きやすい場所ということだ。

ヒデヨシくん
お歴 ヒデヨシ様はそれを見抜いたということですか。
ヒデヨシくん そういうことになるな。水攻めの時に城主であった清水宗治は、同じ備中の清水村の出身だがや。つまり、ずっと備中高松城に住んでいたわけではなかった。だから、この場所がいかに水に弱いのかが分からなかったのかもしれないなあもし。
お歴 当時は現在のようなハザードマップもありませんでしたし。
ヒデヨシくん じゃが、言い伝えというものがあった。この土地は爺さんの爺さんのそのまた爺さんが子どものころ、水が出たとか。
お歴 そういえば、東日本大震災の時に、そんなことがありましたね。
ヒデヨシくん 吉村昭という作家が『三陸海岸大津波』という作品の中で書いておる。たとえ、気が遠くなるような昔でも水が出た、津波が来たところは、また、同じような被害を受ける可能性があるということだがや。
お歴 しかし、今は当時と違って、立派な堤防などがありますよ。
ヒデヨシくん それが良くない。「あれがあるから大丈夫」という油断は、戦国の世の中では命取りだがや。今川義元を見よ。雨が降ったから攻撃してこないだろうと油断していたところを信長様に攻撃されて首を獲られてしまったのじゃ。海や山に近い家は、確かに景色がよくて、わしも淀と一緒に住みたいくらじゃ。しかし、その場所が果たして安全なのか、もう一度確認した方がよいぞ。
お歴 ですが、今はヒデヨシ様の時代よりも人口が増えて、ヒデヨシ様の時代には人が住んでいなかったようなところにも家を建てなくてはならなくなりました。
ヒデヨシくん わかっておる。だが、数年前に水害を受けた神奈川・武蔵小杉は、高度成長期までは湿地で、雨がふったらなかなか水が掃けないところだった。だから大雨が降ると水が溜まってしまうのだ。よくいわれることだが、地名に「水」「窪」「谷」がつくようなところは注意が必要じゃ。今回も「清水」と「水」がついておる。また、現在川や、池や沼があるところだけでなく、かつて川があったところや、池や沼があったところも危険じゃ。
お歴 でも、なかなかかわかりにくいですよね。
ヒデヨシくん 昔から代々その土地に住んでいるという人ならば知っているとは思うのだが。今は、人の移動も激しいからなもし。
お歴 そうですね。
ヒデヨシくん わしのように人の懐に飛び込んで、仲が良くなれば教えてくれると思うがなあ。それは普通の人間には無理だがや。新しい家に住む時には、周りに危険なところがないのか確認することも必要じゃ。散歩がてら実際に周辺を歩いて確認するもよいぞ。さらに最近は自治体などで作っているハザードマップもある。さらに、家を建てる時には、少し土盛りするとそれだけでも違うというぞ。備えあれば憂いなしだがや。

お歴
お歴 今回は、いろいろ学びになりました。ありがとうございました。
※この記事はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。