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現代に転生した天下人・イエヤスくんが「コロナ感染問題」を語ったら?

三大天下人が“今”を斬る【第二回】


ノブナガくん、ヒデヨシくん、イエヤスくん。かつて戦国乱世を制覇し、天下人となった3人の戦国武将が“現代に蘇り、時勢について語ったら”……。はたしてどんなことを語るのだろうか? 今回はイエヤスくんに「新型コロナウイルス感染」について語ってもらった。


 

■コロナ感染対策の良例は江戸時代の政策にあり⁉

 

 

お歴 はじまりました、『3大天下人くんが今を斬る!』、司会の“お歴”です。三大天下人が現世に舞い降りて、現代のニュースを語らい、率直な意見を披露する『三大天下人くんが“今”を斬る!』。今回のテーマは「新型コロナウィルス感染問題」をイエヤス様に語ってもらいました。2022914日、WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は「パンデミックに終わりが見えてきた」と発表しました。しかし、世界に目を向けるといまだ1週間で約1万人が死亡する状況が続いています。

 

イエヤスくん 感染症といえば、わしも天正十二年(1584)に背中に腫瘍(しゅよう)ができて生死をさまよったことがある。細菌に感染してできた、癰(よう)という腫瘍じゃ。何度も膿を絞り出したが、まったく治らなかった。苦労したのう。

 

イエヤスくん

 

お歴 天正十二年といえば、羽柴(豊臣)秀吉様と小牧・長久手の戦いの最中ですね。腫瘍はその後、どうなったのでしょうか?

 

イエヤスくん たまたま家臣が持ってきた薬を塗ったことで治癒した。なるほど、薬とはここまで効能があるのか、と驚いたものじゃ。

 

お歴 戦国時代にも流行した感染症があるのでしょうか?

 

イエヤスくん 最も恐れられたのは天然痘(てんねんとう)じゃな。大陸から仏教が伝来した6世紀頃から日ノ本に入ってきた病と言われておる。つまり、海外から病も持ち運ばれてきたわけじゃ。現代はわしらの時代よりも往来が激しいゆえ、流行はあっという間じゃろう。

 

お歴 当時の被害は大きかったのでしょうか?

 

イエヤスくん 天然痘は致死率が高く、特に子どもが多く感染して命を落とした。当時は、感染症は疫病神がもたらすものと信じられていたから、祈祷(きとう)を行なったり、お守りを持たせたりすることがわしらの時代の感染症対策であった。わしの孫である徳川家光をはじめ、歴代将軍も半分近く天然痘に罹(かか)ったのう。

 

お歴 奈良時代は、流行り病の平癒のために大仏を建立したとか。

 

イエヤスくん わしらの時代もそう大差はなかったということじゃな。天然痘の厄介なところは、たまたま治癒したところで、感染が目におよぶと失明したり、肌におよべば顔などに痘痕が残ったりするのが多かったことじゃ。伊達政宗も一命を取り留めたものの、後遺症として右目を失明しておる。

 

お歴 現状の日本政府の感染対策をイエヤス様どうご覧になっていますか?

 

お歴

 

イエヤスくん 民のことより、己の保身しか考えていないような輩が政治を担っているとしか思えぬ。海外とのやり取り、国内の商いを制限するのは理解できるが、取り締まるばかりでは民にただ座して死ぬのを待て、と言うておるようなものじゃ

 

お歴 戦国時代や江戸時代はワクチンも薬もないですから、幕府も感染症に対しては何もできなかったのではないですか?

 

イエヤスくん そうとばかりも言えぬ。11代将軍・徳川家斉(いえなり)は江戸で流行った風邪(インフルエンザ)対策で、回復するまでの期間を乗り切るための「御救(おすくい)」として、金銭や米を支給しておる。現代でいう定額給付金じゃ。それも、わずか10日あまりで30万人近くに給付するという速さじゃったぞ。

 

イエヤスくん

 

お歴 それはすごいですね。今の日本の政治家さんたちも見習ってほしいですね。

 

イエヤスくん さらに言えば、対象となるのは生活困窮者のみ。感染したかどうかの区別なく、その日暮らしをしているような者たちを最優先に配ったのじゃ。江戸時代は天然痘だけでなく、定期的に麻疹(はしか)が蔓延したり、不作による飢饉(ききん)があったりした。民の不満が爆発すると暴動が起こる。感染症への迅速な対応こそが幕府の危機管理でもあったわけじゃ。

 

お歴 でも、それはイエヤス様の功績では……ないような。

 

お歴

 

イエヤスくん もう少し、わしのことを知ってから物を尋ねるがよい。わしは先に述べた癰を患った体験から医学に関心を持つようになり、猛勉強した。自分で薬の調合ができるくらいにまでなったのじゃぞ。そこらの医師よりずっと詳しかったと言ってもよい。

 

お歴 それでは、ご自身でも普段から感染症には気をつけていたのですか?

 

イエヤスくん 関ヶ原の戦いで勝利した後も、わしがなかなか思うように権力を振るえなかったのは、当時は豊臣恩顧の大名どもがいたからよ。どうしたものか思案に暮れる一方で、鷹狩りをして身体を鍛え、暴飲暴食をせずに粗食を好み、体力の維持に努めた。これらはすべて、長生きをするためじゃ。そうこうしているうちに、加藤清正、浅野幸長、前田利長が相次いで病に倒れた。これを好機として大坂の陣に持ち込んだわけじゃ。彼奴らが罹ったのが、梅毒(ばいどく)と呼ばれる感染症よ。

 

お歴 そんなに梅毒が流行っていたのですか?

 

イエヤスくん 秀吉殿の側近であった黒田如水や大谷吉継も梅毒だったといわれておるな。梅毒は性感染症じゃ。当時は性に自由な気風のある時代じゃったが、梅毒の感染経路はよく分かっておらなんだ。先の腫瘍の件から健康に人一倍気を使うようになったわしは、遊女が感染源ではないかと考えた。そこで、わしは遊女を遠ざけたのじゃ。同じように徳川家の家臣たちにも厳命したものよ。いずれにせよ、梅毒によって旧豊臣家の力は大きく削がれ、わしの手元に天下が転がり込んできたわけじゃ。

 

イエヤスくん

 

お歴 つまり、感染症対策が天下の命運を分けた、と。

 

イエヤスくん その通りじゃ。わしが真の覇権を握れるかどうか分からぬ時じゃったが、災いを転じて福となしたわけじゃな。

 

お歴 現代の政府の対策に何か意見はありませんか?

 

イエヤスくん 当時は種痘という知識も技術もなかったから、感染症に罹って、自ら抗体を作り、集団免疫で乗り切るしかなかった。ところが、現代では予防接種や治療薬などもある。わしらの頃とは比べ物にならぬほど財政も安定しておる。まずは感染症によって困窮を余儀なくされている農民や町民を救うことが肝要じゃ。

 

お歴 江戸時代でもできたことですものね。

 

イエヤスくん 肝心なのは、一刻も早く正常な商いを取り戻すことじゃ。この頃はもう、この疫病をことさら恐れる者は少なくなったと聞く。重症化しやすい老人たちにはまだ警戒が必要かもしれぬが、そろそろ従前の商いを本格的に再開させねば、どんどん世界から取り残されてしまうぞ。

 

お歴 今の総理大臣に、ぜひ直接に進言してほしいです。ありがとうございました!

 

※この記事はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

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