【江戸の性語辞典】江戸時代から現在まで使われるイヤらしい言葉「素股(すまた)」
江戸時代の性語㉓
江戸時代から使われている性語のひとつ「素股」。現在も言葉としても行為としても存在する。ここでは江戸時代にどのように使われていたかを紹介しよう。
■素股(すまた)
女が太腿のあいだに陰茎をはさんで締め付け、刺激することで男を射精に導く性技。いわば疑似性交である。
現在も通用する言葉と言ってよい。
ただし、現代ではローションなどの潤滑剤を使用する。ところが、江戸時代はローションのような便利な物はなかった。そのため、太腿の内側にたっぷり唾液を塗り付けて、潤滑剤の代わりとした。

【図】 素股をおこなう男女。(『春色初音之六女』歌川国貞、天保13年/国際日本文化研究センター蔵)
【用例】
①戯作『好色万金丹』(夜食時分著、元禄七年)
亭主は強精剤の地黄丸も必要ないほどの強蔵、つまり精力絶倫だった。
しかも、亭主はほかに相手もいないので、ひたすら女房の体を求める。
地黄丸のいらぬ強蔵、ほかに遊ぶ色なければ、いかなお内儀も色悪くやせ衰え、普段、鉢巻をほどかず、年子産むも外聞恥ずかしければ、素股にてわけたてるもおかし。
亭主の絶え間ない求めに、女房は疲れ切り、やせ衰えて寝込むほど。また、毎年のように妊娠するのも恥ずかしいので、素股で応じるようにしたのがおかしい、と。
年子は、年ごとに続いて生まれた子。鉢巻は、病身の様子。
②戯作『傾城禁短気』(江島其磧著、宝永八年)
これは、男色の肛門性交(アナルセックス)について述べている。
野州は我が心に合わぬ大臣か、または鼻の高い坊主客かには、秘伝の素股という法をおこない、相手を悦ばさせ、
野州という陰間(男色専門の男娼)は、気に入らぬ男や、鼻の高い僧侶には素股の性技でごまかし、相手に肛門性交と錯覚させ、悦ばせた、と。
なお、鼻の高い男は陰茎が大きいという俗説があった。野州は自分の肛門を守るため、素股でごまかしたのである。
③春本『艶本葉男婦舞喜』(喜多川歌麿、享和二年)
淫乱な姫君の相手をする男は、わざとじらして、なかなか挿入しない。
御足を持って我が横腹に押し当て、ぐっと割り込み、中腰になり、鈴口にてお臍(へそ)のあたりより、そこらちょいちょい突きまわし、入れるふりして、わざと素股をくわせ、ずっと入れてはちょいと抜き、ちょいと突いてはしばらく休み、あるいは早めて、ちょちょちょちょちょいと、突き立て、突き立て、
鈴口は陰茎の尿道口のことだが、ここは亀頭と解釈してよかろう。
④春本『春色初音之六女』(歌川国貞、天保十二年)
藤兵衛が求めるが、芸者の米八は義理があると言って、させない。
藤「そんなに義理が立たねえというなら、仕方がねえから、素股を一番、させてくんな。どうも、こたえられねえ」
米「あれさ藤さん、おふざけでない」
藤「なに、ふざけやあ、しねえけれども、てめえが本当にしちゃあ義理が立たねえと言うからのことだ」
と、無理に米八の股へ割り込み、すべすべとする真白な腿のあいだへ一物を押し込み、腰を使えば、
かくして、藤兵衛は素股で射精する。
[『歴史人』電子版]
歴史人 大人の歴史学び直しシリーズvol.4
永井義男著 「江戸の遊郭」
現代でも地名として残る吉原を中心に、江戸時代の性風俗を紹介。町のラブホテルとして機能した「出合茶屋」や、非合法の風俗として人気を集めた「岡場所」などを現代に換算した料金相場とともに解説する。