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「13人の合議制」にまつわる5つの謎

鎌倉殿の「大粛清」劇①

「鎌倉幕府勢揃い」
頼朝が御家人をあつめ、平家討伐を宣言する様子。北条義時など、有力御家人たちが集まった希少な絵。都立中央図書館蔵

Q1 源頼家は本当に愚かな人物だったのか?

頼家が愚君と伝わるのは執権・北条氏が理由⁉

 

 鎌倉幕府の準公式歴史書である『吾妻鏡』は、源頼家は側近の専横(せんおう)を放置し、頼朝以来の老臣を軽視したため、御家人たちの反発を買い、見限られたと記す。しかし『吾妻鏡』は、北条氏が鎌倉幕府の実権を握った時代に成立した歴史書であり、北条氏と対立した頼家をことさらに悪く描いた可能性がある。

 

『吾妻鏡』正治2年(1200)5月28日条に、土地の境界争いに際し、頼家が各々の言い分をまともに聞こうとせず、絵図の中央に墨を一直線に引き、「土地が広いか狭いかは、お前たちの運次第だ」と言い放ったという有名な逸話が載っている。しかし、この話はいかにも作り話めいており、信用しがたい。

 

 また、建久10年(1199)4月20日、源頼家は梶原景時・中原仲業(なかはらなかなり)らを通じて、政所に命令している。すなわち、小笠原長経(おがさわらながつね)・比企宗員(ひきむねかず/能員の子)・比企時員(ひきときかず/宗員の弟)・中野能成(なかのよしなり)ら頼家の側近が鎌倉において狼藉(ろうぜき)をはたらいたとしても、庶民は手向かってはいけないというのだ。これも非現実的な命令であり、事実とは思えない。

 

 加えて、源頼家が暗愚(あんぐ)である根拠として、政務そっちのけで蹴鞠(けまり)に熱中したことがしばしば挙げられる(母の北条政子に諫[いさ]められるほどだったという)。しかし蹴鞠は公家と交流する上で必須の教養であり、頼家の蹴鞠は政治活動の一環であった。

 

『吾妻鏡』は、編纂(へんさん)された当時、幕府の実権を掌握していた北条氏を美化する性格を持つ。後掲の記事に見えるように、北条氏はクーデターを起こし、源頼家を追放、殺害している。『吾妻鏡』は頼家の横暴、将軍としての不適格性を強調することで、北条氏による反乱を正当化しているのである。したがって『吾妻鏡』の記述に依拠して頼家=暴君と決めつけるべきではない。

 

Q2 「13人の合議制」という体制は本当にあったのか?

宿老13人全員が集まった実例は確認されていない

 

 前述したように、従来、「13人の合議制」は、無能な源頼家の独断専行を抑止し、有力御家人たちの合議をもって幕府の決定とする政治制度として理解されてきた。だが、前述の絵図に直線を引いた話も、同制度導入以後の事件であり、頼家が良くも悪くも政治的意思を発揮した事例は散見される(『吾妻鏡』だけでなく頼家発給の文書も残っている)。

 

 加えて、前掲『吾妻鏡』建久10年4月12日条の「諸訴論の事、羽林(頼家)直に決断せしめ給うの条、これを停止せしむべし」についても、再検討が進んだ。『吾妻鏡』の最善本とされる吉川史料館所蔵本(吉川本)には、「決断」ではなく「聴断(ちょうだん)」を停止すると書かれている。よって、源頼家は裁判の判決権(政務の決定権を含む)を奪われたわけではなく、直訴を受け付けることを禁じられたにすぎない。

 

 近年の研究によれば、これまで「13人の合議制」と言われてきたものは、13人のうちの数名が訴えを取り上げて評議し、その結果を源頼家に提示した上で、頼家が最終的判断を下す政治制度であったという。すなわち、禁止されたのは13人以外の御家人が訴訟を頼家に取り次ぐことだったのである(取次役を13人に限定)。

 

 様々な人間が好き勝手に訴訟を持ち込めば幕政は混乱する。その意味で、13人の宿老は必ずしも源頼家の権力を掣肘(せいちゅう)する存在とは言えず、むしろ年若い頼家を補佐するために選出されたと言える。当初から、頼家と有力御家人たちが対立していたと見るべきではない。

 

 ちなみに、『吾妻鏡』はじめ諸史料において、13人全員が集まって合議を行った実例は確認されていない。その点、「13人の合議制」という名称は実態に即しておらず、不正確である。「13人宿老制」とでも呼ぶべきだろう。

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歴史人編集部れきしじんへんしゅうぶ

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